コズミックガール | ナノ

01

「朝は家出る1時間前には起きた方がいいよ。洗顔してスキンケアするんでしょ? あ、寝癖も直さないと。夜はごろごろする前に全部やっちゃうの。ご飯食べるのもお風呂入るものも宿題するのも。最初は大変だけど、慣れたら全部済まさないと嫌になるから」

「そうねえ運動ねえ、学校への行き帰りに早歩きとかしてみたら? だって急にご飯の量減らすとかは失敗しそうでしょう。…そうそう、アンタやけに早食いなんだからゆっくり噛んで食べてみなさいよ」

「とりあえずななこは基礎からわかってないだろうから、このテキストのシリーズで勉強してみたら? わたしが使ってたやつだけど結構わかりやすいし、要点まとめてあるよ。そんな1年生の内容を最初からゆっくり復習してる時間なんかないし、わからなかったら戻るっていうのを繰り返すのがいいと思うんだけどなあ」

 妹も母もともちゃんも、とっても優しかった。もらったアドバイスを全てメモして、ベッドの側に貼っておく。とりあえず目につくところに置いておきたかった。

 朝は頑張って起きた。2度寝しないのが辛かった。

 登校するときはともかく、下校は早歩きして汗を流した。授業中は寝ないように心掛けた。
 ご飯はよく噛んで食べるように意識した。

 家に帰って真っ先にゲーム機に電源を入れていたのを、とりあえず机に向かうようにした。テキストが進む進まないは別にしてその習慣をつけたほうがいいと言う、ともちゃんを信じた。

 慣れてきたら、夜と朝にストレッチをするようになった。
 そしてゲームを買うために貯めていたお金で、妹と一緒にスキンケア用品やお化粧品、洋服なんかを買いに行った。妹とふたりで出掛けるのなんか久しぶりで、それを聞いた母が心底驚いた顔をしていた。
 妹が好きだと言う服屋さんやアクセサリー屋さんにも足を運び、それらの可愛さに感激した。カフェにも立ち寄り、「息抜きも大事」と言う妹と一緒に可愛いケーキを食べた。すごくおいしくて自然と顔が綻んだ。

「女の子ってキラキラしてるんだね…」

 帰り道に感心しながらそう呟くと「お姉ちゃんも女の子だよ」と言う妹になんだか照れた。どこでそんなイケメンなセリフ覚えてきたんだ。

 色々と大変だけど、意識改革をとりあえず1ヶ月は続けることができた。そしてこれからも継続できるよう努力しようと思う。
 適度なスキンケアのお陰かお肌は調子よくなって、そこまでニキビができなくなったように思う。
 体重に目立った増減はない。だけど早歩きとストレッチのおかげか、はたまたよく噛んで食べることが良いのか、悩まされていた便秘が改善されてきた。
 勉強面ですごい変化はないけど、小テストの赤点をギリギリ回避できるようになった。そして夜の寝つきが良くなり、朝はすっきり起きられるようになった。

 休みの日なんかに妹とお化粧の練習をして、ファッション雑誌で勉強したりした。
 担任の先生に真面目に進路の話をしに行った。先生は泣いて喜んでいた。そこまで? とは思ったが口には出さない。

 自分が変われていることに日々喜びを感じていたが、その中でも嬉しかったのは、ぎこちないながらもクラスの子たちと少しずつ話ができるようになったこと。

 コミュ障と呼ばれるわたしの最大の弱点は、話し出す際の「あ、あの、えと、その」と鬱陶しさ全開であろうどもってしまうことだったが、クラスメイトはみんないい人で茶化されることはなかった。それも人と話すということに慣れてくると、多少マシになったと思う。たぶん。
「ななこちゃん変わったね! 話しかけやすくなった!」
 とかなんとか言われちゃったりして。イヤイヤそんなこと! と謙遜必須だったけどやっぱり嬉しいものは嬉しい。

 今までは同じ教室の中にいるのに、距離を置かれていて遠巻きに見られているだけだった。わたしといることでともちゃんもそう見られているのではないか、とか考えたりもした。ともちゃんは優しいから何も言わなかったけど。

 そんな喜びを噛み締めた後はいつもあの人に感謝をする。
 土方くん、あなたのあの一言があったからわたし、少しずつだけど変われてるよ。毎日楽しいよ。



 それはある日、教室を移動していたときだった。ふと窓から、中庭を挟んだ向かいの廊下で、たくさんの女の子に囲まれながら歩く姿を発見する。
 あんな世界が違うような人とふたりきりで話していたなんて…と変な気分になる。

 感謝の意を込めて、そちらへ向き直って頭を下げた。周りの目を気にしすぎて会釈程度になってしまったけど。まあ、やることに意味があるよね、うん。

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