02
「だから何回言えばわかんのかなァ。このままだったら留年だよ留年!」
朝のホームルーム終了後、1限目の授業が始まるまでの、たった10分しかないフリータイムに呼び出された。それが担任の先生だっただけでいやーな予感がした。
それは見事的中し、お説教が始まってしまう。それは専ら、わたしの成績についてだ。
実は、新学期早々に行われた実力テストが笑えないくらい悲惨な点数だったのだ。そして夏休み前の今、つい先日行われた中間テストは赤点まみれだった。
わたしは点数の低さにもう、逆に笑えてきていたのだが、それが表情に出ていたらしく「笑ってる場合じゃねー!」と更に怒られた。周りからの視線が痛い。
わたしは今現在、高校3年生。本年度卒業予定だが、前述したとおり成績が悲惨だ。そのせいで留年にリーチかかっているらしい。
それを逃れなければならないのに並行し、まだやらねばならないことがあった。卒業後の進路についてだ。進学にしろ就職にしろ、何かしら決めないといけないことはわかっている。でもどうにも現実味がわかない。あと半年ほどで卒業するなんてことは特に。
だから勉強にも全く身が入らず、テストの順位はいつも下から数えたほうが早い。別にそうしたくてランキング下位に存在しているわけではないが、勉強しない習慣というものがなかなか改善できず、結局諦めている。
最近になって、今までしてこなかったのに急にできるほうがむしろ不思議だと開き直るまでになってきた。
しかも家に帰れば、愛しのプリンセス(シミュレーションゲーム)が待っている。幻覚だとわかっていながらも、そのゲーム機器が輝いているように見え、どうしても誘惑に勝てない。
帰宅すればすぐに完全敗北を決めて、両手にすっぽり収まる機器もろとも布団にダイブするのが最近の日課だ。
青筋立てた担任にガミガミ怒られて、教室に帰された頃にはずいぶんと疲弊していた。時間に換算すると5分ほどだったはずだが、気力のほとんどが削がれたような気がする。
まだ午前中なのに、むしろ1限目も始まっていないのに、とひとり溜め息をつく。
「あーななこじゃん。おかえりー。また怒られてたの?」
出迎えてくれたのは数少ない友人だった。愛称ともちゃん。わたしは彼女を恋愛シミュレーションゲームの女王だと認識している。実際にそう呼ぶと怒られるので心の中で言うだけだが。
ともちゃんは最近、ノーマルなシミュレーションでは飽き足らず、R指定に手を出したと聞いた。なんて破廉恥な。わたしはまだピュアにときめいていたいので、触れることはしないがよく勧められる。
「んーいつものだよー」
「ちゃんと勉強しないからじゃん」
「だってタケルがー!」
タケルとは愛しのプリンセス、通称・愛プリの主要キャラだ。クールな面持ちでありながら照れ屋という、ツンとデレの両立が可能なキャラである。最近のお気に入りだ。
「まあね、かっこいいね」
相づち打ちつつ笑う彼女は、こちらと同類に見せかけてそれらの両立がしっかりできるタイプだ。成績は常に上位をキープしているらしい。
見習わなければいけないんだけど、どうもやる気が、ね…。
そんな話をしていると始業のベルが鳴り、話し足りなさを覚えながら自分の席に戻った。
もう1週間もすれば夏休み。その前に三者面談が行われるのが、今の自分にとっての悩みの種だ。また進路のことを話さなければならないからだ。
特にやりたいこともないし、行きたい学校も職種もない。向かう先もないのに、やる気を出して努力なんてできない。
ふと、タケルの言葉を思い出す。「行くとこないなら俺のところに永久就職したらいーじゃん」ーーーなんて、そんな上手い話ないよね。まず料理もその他の家事もできないし。むしろ彼氏いないし。
なあなあで毎日を過ごし、1週間なんてあっという間に過ぎた。お母さんに「ちょっとはがんばりなさいよ」とせっつかれ、希望に満ちた夏休みが始まる、なんてことはなく。
「タケルー! かっこいいよタケルー!」
タケル攻略に、夏休みのほとんどを費やした。
prev next