コズミックガール | ナノ

Last

 バイブレーションしたスマホの画面を見ると、ともちゃんからのメッセージを受信していた。
 "なんか良い雰囲気っぽいから先に帰るね"
 その文末にはハートマークが添えられている。

 すると再度携帯が震えた。今度はなんだと画面を見つめると知らないアカウントからメッセージが届いている。
 "焼きそばパン、明日から1週間な"
 その文面だけで誰かわかってしまったのが辛い。ともちゃんめ…あの悪魔に魂売ったな…と、がっくりと肩を落とす。

「なに溜め息ついてんだよ」

 頭上からかかった声に、自然と肩が震えてしまった。

「ううん、ともちゃんと沖田くんからメッセージがきてね」

 そこまで言っただけなのに「…ああ」と全てを理解したかのような反応をしてくれた。そして土方くんもスマートフォンを取り出し、画面をタップしながら液晶画面をこちらへ向けてくれた。

「焼きそばパンだろ」

 自分に送られてきたものと全く同じ文章がそこにはあった。思わず「…ああ」と返事をした。



 額がじんじんと痛む原因となったファミレスは、あのあとすぐに出ることになった。
 わたしが急に机に額を打ち付けたものだから、土方くんはとっても驚いていた。その反面、至って冷静に「どうした」なんて聞いてくれているけど、その頬は朱に染まっているのがわかる。

 さっきからどうにも心臓に悪い表情ばかり見せる土方くんとこのまま室内に留まっていると、周りの視線の痛さがとんでもないことになると直感した。
 まあ…それらの原因は主に、土方くんに萌えるわたしの奇行のせいだけれど。

 「出よう」と一言告げるとなにかを察したように二つ返事で了承しスマートにお会計を済ましたその人と、思い出の1ページになりそうな場所を後にした。



 特に行く当てもなく、ふたりでなにか弾むような会話をするわけでもなく、行き当たりばったりに道を進む。
 自分の足取りはなんだかふわふわしていて、しゃんとしてないと転んでしまいそうだ。

「そういやあ、」

 沈黙を破って、土方くんが呟くように言う。

「なんで総悟の連絡先、知ってんだよ」
「たぶんともちゃんから流れたんだと思う」
「…ほォ」

 そのあと黙り込まれてしまったら、不穏な空気が立ち込めたような気がした。

 …これは一体なんだ。

 強面で前を向いてしまった土方くんに、なんだか焦りが募る。変なこと言ってしまったかな。でも恐らく自分に落ち度はない。きっとともちゃんにもない。沖田くんの独裁のせいだ。

「アイツの連絡先なんか消しとけ」
「ええ、でも後が怖いなあ…」
「なんかありゃあ俺に言えばいいだろ」
「えっでも土方くんの連絡先知らないよ」
「…お前、結構鈍いのな」

 ふ、と小さく息を吐いた土方くんは「ん」とスマホを持った手をこちらへ差し出した。意味が理解できず、とりあえずわたしも手を伸ばして彼のスマホを受け取った。
 …で? どうするの? そういう気持ちで彼を見上げると、なんか更に深い息を吐かれてしまった。
 なに? わたし、なにか間違えたの?

「…連絡先、交換すっぞ」
「ええ!? いいの!?」
「当たり前だろ。お前はこれから俺と文通でもするつもりか」
「いえ、文明の機器がいいです…」

 土方くんの連絡とれる…考えただけでなんか手が震えた。

「QRコード読み込むね」

 土方くんの某SNSアカウントを検索し、友達に追加する。そして自分から何かメッセージを、そう思うのになかなかフリック入力がうまくいかない。それはきっと震えの止まらない手のせいだ。

「はい、送ったよ」
「おう」

 するとすぐに既読がついて、クマの可愛らしいスタンプが返ってきた。
 その可愛さと土方くんとのギャップに心臓を鷲掴みされてしまい、少し呼吸が乱れたのをなんとか整える。

「土方くん…」
「なんだよ」
「ゆ、夢じゃないんだよね…?」
「お前は目を開けて喋りながら寝れんのか?」
「いえ! 無理です!」

 勢いよく返事すると「うるせえ」と言いつつも口の端を歪めて、不器用に、だけど綺麗に笑う土方くん。こんなかっこよくて優しくて素敵な人と、わたしは…。

「…付き合うか」
「…ハ、ダレとダレが…」
「お前と俺が」
「つ、付き合う…!」
「まあ、さっき熱烈な告白うけてっからな」
「わー! 恥ずかしいからやめてー!」

 いつだって急に爆弾を投下する土方くんに恥ずかしくなって、顔を覆って背を向ける。なのに、ぐっとわたしの手首を掴んで引き寄せて、がっちり目を合わせて土方くんは言う。

「なんつーか、その…あれだ、嬉しかったから」

 もうまじでなんなの。なんでそんなことサラッと言えちゃうの? 誰も見まごうことなきイケてるメンズだとそういうこともスマートにできちゃうの!?

 火照る頬を手のひらで押さえながら小さく「はい…」としか返事ができないわたしに、土方くんは「茹でダコみてえ」と笑った。

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