06
その綺麗な顔でじっとこちらを見られては、言えるものも言えなくなってくる。
いや、元々言えるような内容ではないのだけれど。そんな、さあ、とでもいうような目をしないで頂きたい。わたしのせいで状況が進まないみたいじゃないか。いや、そうなんだけど。
なんて、頭の中で問答を繰り返していると「んな顔すんなよ」という言葉が飛んできた。今まで土方くんの顔なんか全然見られなかったクセに、声色に少し優しさが含まれていただけでパッと目線を上げてしまう。
だけど浮かべていた表情はなんだか切ないような、悲しそうな、なんだか複雑そうなものだった。…土方くんこそ、そんな顔しないほうがいいのに。
「うまくいかねえ。お前のこととなるとどうにもな」
「…そんなの、」
わたしだって。その言葉を、口に出すよりも前に「行くか」なんて言いながら土方くんは腰を上げた。
彼は優しい。いつだってそうだ。きっと今もなにも言わないわたしを気遣ってなにも聞かないでいてくれるんだ。
ほら、やっぱり勘のいい人じゃないか。それほど土方くんって、と自惚れて、彼の大きな背中を見上げた。
土方くんは、わたしとの関係を変えようとしてくれてたのに。また、なにも言えない自分。
立ち上がらないのを不思議に思ったのか「どうした」と、優しい目でこちらを見下ろされてなんとも切なくなった。
「ひ、土方くん」
声が喉に張り付くみたいにうまく出ない。土方くんもこんな気持ちになりながら、
「好きです」
わたしに好きだと言ってくれたのかな。
「…、…はァ!?」
突拍子もない声を上げた土方くんは、眼球がこぼれ落ちそうなほど目を見開いた。プラス、瞳孔は全開だった。
「いや、今のは、その…!」
猛烈な恥ずかしさが押し寄せて、なにか誤魔化そうと顔の前で両手を掲げて隠れた。その隙間から見えた、明らかに動揺した様子の土方くんはもたつきながら椅子に腰を下ろしている。
ガタガタガタ、と派手な音を立て、3回も座り直すその横顔を見ると、
「お前…このタイミングは反則だろ」
耳まで真っ赤に染めていた。目だけでちらりとこちらを見られたけど、そんなのもう…かっこ可愛かった。
なんだか鼻血が出そうな気がしたが、過去の失態を思い出してなんとか堪える。
「まあ、なんにせよあれだ、その…」
ふ、と照れ臭そうに口の端を持ち上げた土方くんは、とても綺麗に笑った。
「俺もだ」
わたしは、机におでこを打ちつけた。
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