03
「お前が、好きなんだよ」
いつもより真剣な表情でそう重ねた土方くんは、本当にかっこよすぎた。そのうえ耳まで真っ赤にさせたギャップに心底萌えた。
なんなんだこの人は。
どれだけわたしの心を奪っていけば気が済むのだろう、なんて頭では冷静に状況判断できているのに返事はできない。
顔は熱いわ、心臓は痛いわ、手足は震えるわ…自分の体は、彼の言動ひとつひとつに痛いぐらいに反応していた。
小さく笑った土方くんに「顔、真っ赤だぞ」とさらりと指摘される。
「…土方くんもだからね」
「そんなわけねえ」
「いやいや。わたし鏡持ってるから見せたげようか」
「んな気ィ使うなよ」
「いやいやいや。優しさじゃないから。現実を直視させたげようと思って」
なのに土方くんが会話のキッカケをくれただけでほうっと落ち着いて、すらすら話せてしまった。そんなことか可笑しくて、なんだかこちらも笑ってしまう。
「…お前の笑った顔、いいよな」
「えっ! そうかな!?」
「なんだよ急にでかい声で」
そんな穏やかになった空気をぶち壊すように、柔らかく微笑んで爆弾発言をされてしまった。
この状況でのその言葉は反則じゃないか。心臓が痛くて堪らない。先ほどから呼吸もしづらくて苦しい。わたしはこの人にキュン死にさせられるのだろうか。もうキュンどころの話じゃないけど。ギュンギュンしてるけど。
「つまり、あれだ」
「えっ、まだあるの? 心臓痛いんだけど」
「俺の隣で、笑ってろ」
もうむしろ死なせてください。
あまりの心臓の痛さに思わずうずくまる。土方くんはやっぱり、自分の破壊力をわかってなさすぎる。もっと把握してもらえないものだろうか。
はあはあと肩で息をしていると彼もしゃがみ込んでくれた。それは恐らく優しさからなんだろうけど、今の自分にとっては毒だった。「大丈夫か」なんてとっても近い顔で言うものだから頭がくらくらした。
土方くんの存在自体ですらキャパシティオーバーなものだったらしく、受け止めきれなかった。
「…おい、七瀬?」
最後にその言葉を聞いたのは覚えてる。ハ、と短く息を吐いて重たい瞼をおろした後のことはちっとも覚えていなかったけど。
「…で?」
「起きたらその日の夜10時だった。ちゃんと自分の布団で寝てた。リビングに降りたらお母さんと妹が土方くんのかっこよさ故に狂喜乱舞してた。なんかもう気持ち悪くなって二度寝して起きたらともちゃんから電話きた時間だった」
「ってことは返事してないの? 土方くんの熱烈な告白に?」
「…そうなります」
ともちゃんはグラスに口を付けながら「まじでか」と呟いた。
「ななこって土方くんのことになるとナイーブよね」
「土方くんがかっこよすぎるんだよ。しかも本人がそれを自覚してないからたち悪いの」
ジュースを飲み干して、ほう、と溜め息をつく。次はどんな顔してあの人に会えばいいのだろう。普通に接せられる自信がない。
「なーんだ、ついに付き合ったのかと思ってた」
「ともちゃん、そればっかり」
「だから土方くんのこと時間差でここに呼んじゃったじゃん」
「…え?」
「しかも沖田くん経由でだからあの人もついて来ちゃうかも」
「ええ!? ダメそれ! 絶対!!」
焦りながらそれは何時かと聞いてみると、14時に約束を取り付けたとのこと。
携帯を開いてみると13時50分だった。あと10分しかない。
「…ともちゃん、わたし帰る」
「うーん、どうせならハッキリさせたら? ななこの気持ちはオーケーなんでしょ?」
「そうだけど、モチベーションってあるじゃん! わたしどんな顔で会えばいいか…」
「そのままでいいんじゃない? 土方くんがななこのこと好きって言ってくれたんだから」
ともちゃんのその言葉に悩んでいると、カランカランと扉の開閉時に鳴る鈴の音が聞こえた。反射的にそちらを見ると、自分たちの座る4人がけのテーブルから出入り口がよく見えた。
そこには至っていつも通りクールな表情の土方くんが立っていた。彼の後ろにはこの上ないぐらい楽しそうににやにやした沖田くんもいた。
自分は吐き気を催した。
prev next