01
目が覚めると、朝だった。
体を起こす気になれないまま見慣れた天井をぼんやりと眺めていると、顔の横に置いてある携帯が震えた。ヴーヴーヴー。鳴り止まないバイブレーションに負けて仕方なしに画面を覗くと、ともちゃんからの着信だった。
「…はい、もしもし」
「もう! 何回鳴らしたと思ってんの!」
「いや待ってよ。逆にいま何時だと思ってんの」
「早朝6時でございまーす」
ともちゃんはやけにハイテンションだった。声が大きすぎて、電話口から聞こえる声が音割れしている。
「ななこ、今日はひまでしょ」
「せめて疑問系にしてください」
「大丈夫、わかってるから」
どこがどう大丈夫なんだと聞き返したくなったが、今のともちゃんには何を言っても無駄だ。こうなると彼女はなかなか引いてはくれない。
しばらく押し問答が続き、最終的には負けた。今日の13時、大江戸駅前のファミレスに集合だそうです。
電話が切れ、電話口から聞こえる虚しい音を聞きながら目をつぶる。前述したとおりまだ6時だ。約束の時間まで時間はたっぷりある。
もう一眠り、と夢の世界へこんにちは。そうなるのに時間はかからなかった。
「ななこー! 遅いー!!」
2度寝したらものの見事に寝過ごし、起きたら正午を大幅に回っていた。それでも懸命に準備をし、自転車をぶっ飛ばし、13時ちょうどには到着した。
息を切らしてファミレスの入り口にたどり着くと、そりゃあもう可愛い格好に綺麗にお化粧をしたともちゃんが仁王立ちで待っていた。
「ご、ごめん…2度寝しちゃって…」
「わたしがどれだけこの瞬間を楽しみにしてたと思ってるの!」
「それより、のどが、死ぬ…」
はあ、と大きく息を吐きながら呼吸を整える。いくら毎日の登下校を歩いているとはいえ、20分弱の全力での自転車漕ぎはしんどい。そんなことはもう二度としないと心に決める。
「大丈夫? お店はいって何か飲みなよ」
ともちゃんの言葉に甘えて、ランチタイム後半に差し掛かったファミレスに入店した。席に通してもらい、メニューに目を通す。
今までにしたことないほど喉がパサパサだったので、ひとまずドリンクバーをチョイスした。
「っはー! 生き返るー」
冷たいジュースを喉に通し、再度大きく息を吐く。ようやく落ち着けたような気がする。
ねえ、と呼ばれたので、前でストローを咥えるともちゃんを見る。すると彼女はこれでもかと目を輝かせて口を開いた。
「どうなったの!?」
「えっ、どうって?」
「とぼけないでよ。誰だっけ? カップルダービーの開催途中に、姫抱っこされながらエスケープしたの」
「わあー、やめてそれ禁句だから」
思い返すと否応無しに真っ赤になる顔。一瞬で熱くなった。ともちゃんはにやにや笑いながら「早く吐いちゃいなさい」とその続きを促してくる。
「…聞きたい?」
「当たり前よ! だから呼び出したの! 全く、文化祭の次の日が祝日なんてタイミング良すぎ」
そうなのだ。あのハチャメチャな文化祭は昨日の話。今日が祝日で本当によかったと思っている。むしろこのまま学校に行きたくはない。
口ごもるわたしが予想外だったのか、ともちゃんは少し怪訝な表情をしてこちらを覗き込んでくる。それを見、自分はとりあえず笑って見せた。
「わたしね、倒れたの」
「…はっ?」
「土方くんの前でぶっ倒れたの」
「ちょっと待って。話が全然見えない」
首を捻るともちゃんに、そりゃそうだと思った。これでわかったら理解力と勘に長けすぎている。
「えーとね、」
言葉を選びながら、昨日の出来事を振り返った。
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