コズミックガール | ナノ

Last

 薄暗い中、隣で死にそうな顔をしているのを眺める。
 化粧の力を目の前にして、その威力に素直に感心した。隣に立っているそいつはまじまじと見ても誰かわからない。

 別に、乙女の武装やらなんやらをフル装備しなくたって、お前はいい顔していると思うんだが。
 そんな、思わず喉まで出かかった言葉をこれまた反射で飲み込んだのは、七瀬の友達と総悟の前だったからだ。

 七瀬が可愛いか綺麗かと聞かれるなら、可愛い部類だと俺は考えているし、なにより一緒に話していて楽だ。
 それに顔だスタイルだ、なんて見た目より中身のほうが大事ではないだろうか。

「土方くんの隣に立って歩けるかな…」
「いっつも歩いてんだろ」
「状況が違いますって」

 もうすでに疲れ切った顔をして舞台へ入場して行く出場者を眺めている七瀬は、深くため息をついた。
 溜め息をつきたいのはこちらも同じだった。実は今日、俺はずいぶんと落ち着かない気持ちでこの場に臨んでいる。

 昨日、彼女に向かってこの関係をハッキリさせてやると言い切ってしまった手前、なにかしらアクションを起こさなければと考えながら登校した。
 七瀬は特に変わった様子もなく、待ち構えるカップルダービーのこと以外は考えられないといった様子である。

 それはそれで都合が良かった。曖昧ではあるが、この関係を壊したくないと思っている。お互いを縛る理由もなく隣に立っているのは楽なのだ。
 なにか特別な関係をスタートさせてしまうのは少し躊躇する。始まりがあれば終わりがあるかもしれないから。その原因を作ってしまうのは七瀬か俺か、それはその時にならないとわからないが。

 そこまで考えて苦笑した。

 彼女と特別な関係になる前提で考えていたことに気付いてしまった。断られるなんてことは寸分も思わなかった。
 断られないと自信を持ってしても何故、その1歩を踏み出せないか。それはやはり終わりがくるのを恐れてだろう。

「やばい土方くんもうすぐ呼ばれる。やばい吐く」
「飲み込め」
「水をください」
「ねえよ」

 真っ白な顔をして、肩で息をするその姿をなんだか見ていられなくなってきた。

「バックレるか」
「えっ、そういうのしてもいいの?」
「俺は別に。出たいわけじゃねえし」
「出ようって言ったの土方くんじゃん!」
「キッカケになるかと思ったんだよ」

 あまりにぽかんとしたアホヅラでこちらを見るので、思わず笑ってしまった。

「キッカケ? ってなに?」
「…それは追い追い話す」
「ちょっと待ってよ気になるよ。昨日から色々と爆発しそうなんだから」

 さっきまでの表情から一変して、切羽詰まったような、切なそうなその顔に勢い余って色々と言いそうになる。

「…雰囲気ぐらい、作らせろ。勢いで言っちまいそうになる」
「えっ? なに、がーーーー!?」

 何度目になるだろうか。その柔らかい体を抱き上げて、タイミングよく自分たちの番号を呼ばれるままに舞台袖からそのど真ん中へ移動する。
 事態を理解して動きを止めた七瀬の姿に、なんだか笑みが漏れた。

 ざわつく会場内は余所に、そのまま体育館の外へ。人通りのまばらな校内を移動し、誰もいないであろう屋上へ向かう。
 目的の場所へ着いて、抱き上げていた七瀬をおろすと、真っ赤な顔でこちらを見上げてきた。

「…なっ、」
「あ?」
「なにやってんだバカーー!!」

 真っ赤な顔で言われてもなにも怖くはない。酸素を求める金魚みたいに口を開閉させるその姿から察するに、次の言葉が繋がらないらしい。

「お前に、言いてえことがある」

 唇をきゅっと結んだその姿に、こちらも思わず目を伏せた。



 これから、俺たちのこの関係を、世界を、暗転させようじゃないか。

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