01
「えっ、付き合ったんじゃなかったの?」
その一言に、飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。急に何を言い出すんだともちゃんは。
そんな思いを込めて彼女を見ると「そんな睨まないでよーあはは」なんて呑気な声で笑っていた。
「だってななこのことわざわざ助けに行ったんだよ? どうでもいい人のこと助けないでしょ。ましてや滅多に女の子と絡まない人なのに」
「…うん」
「しかも文化祭のカップルダービー、一緒に出ることになったんでしょ? まさかの土方くんからのお誘いで」
「…そうです」
「さらにお前と話してるの楽しいよーなんて言われちゃって? お前は特別だーまで言われちゃって?」
「ちょ、ともちゃん声でかっ! というか話し方うざっ!」
ノリノリなともちゃんは毎度毎度、ここがA組の教室だということをお忘れのようだ。
「放課後になったらななこのこと待ってくれてるし? そのまま一緒に帰ってるし?」
「それは、土方くんが心配性なだけで」
「どっからどう見ても付き合ってるふたりなんだけどなー?」
「…でもやっぱり、あの人にとってわたしは友達なんじゃないかなあ」
その言葉を聞いて「そうかなあ」と呟くともちゃんはどうにも腑に落ちないらしい。
そりゃそうか。当の本人だってこの関係になんだかモヤモヤしているのに、端から見ているともっと歯痒いのだろう。
彼女の言うとおり。確かに土方くんは「大丈夫か」と聞くためだけに、放課後になったら教室の前で待ってくれている。
人目もあるし、そう何回も被害に遭わないよと説明はした。だけど律儀に待っていてくれるのだ。そのまま別々に帰るのもなんなのでと一緒に靴箱へ。ここまでくるとあとは流れで一緒に下校となる。
その甲斐あってか、睨まれることはあっても絡まれることはない。本当に土方様々だ。…まあ原因もこの人なんだけどね。
そんな何気ないようで全然何気なくない日々を過ごすうち、なんとなーく思うことがあった。
それはやっぱり友達だと思われているんじゃないか、ということ。
自分を例に挙げてみる。土方くんのことが好き、自覚したその瞬間から、彼の隣に立つことから言葉を交わす何気ない時間に至るまで、いつも心臓が爆発しそうでしかたない。
ところがどうだ。土方くんは超普通。限りなく自然体で、本当にナチュラルにわたしの側に立っているのだ。
そりゃあもう、わたしの出口の見えない一方通行なんだと残念な気持ちになるぐらい。
特別ってきっと、いや絶対。彼にとって稀な女友達って意味だと思う。
「もう明日だよ? 文化祭」
ともちゃんのその一言で現実に頭打ちする。
そう。時間が経つのは早いもので、わたしの人生のターニングポイントとも言える文化祭、もといカップルダービーの開催はもう明日に控えていた。今そのことにとっても焦っている。
理由として、この持ち前のフォルムで土方くんの隣に並んで、全校生徒の前に出なければならないということが第一。
それに加えて、急にカップルダービーに出ると言った土方くんの真意を図りかねているというのも、焦りを加速させている一因でもある。
「やっぱり出ないとかアリかなあ…」
「それは土方くんと話し合いでしょ。どうせ今日も一緒に帰るんだからそのときに聞いてみたら?」
「どうせってなに、どうせって」
「違う?」
「んー…いてくれたら帰る、かも」
「今日もいるね。絶対。いなかった日ないじゃん」
どうやっても否定できない彼女の言葉が、胸の内の深いところに落ちて刺さった。
事実、あの日から昨日まであの人は放課後になると絶対に待ってくれていたからだ。
「…なんか調子狂うなあ」
「それが青春じゃない?」
「ともちゃんってそんなキャラだっけ」
「いつもこんなキャラよ」
うふふと可愛く笑うともちゃんに「そうでしたね」とため息混じりに返すとチョップをお見舞いされた。痛い。
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