コズミックガール | ナノ

04

 話し合った結果、カップルダービーへの参加は保留となった。一応用紙は提出したままにするけど、土方くんは人前に立ってあれやこれやとしたくない。わたしはもっぱら見た目に自信がない。

「えーもったいない! せっかくなのに参加しなよー!」

 ともちゃんは参加することをしきりに勧めてきたけれど、首を縦に振ることはできなかった。


………


 土方くんとは、会えば何気ない話をするようになった。「おはよう」から始まって「元気?」とかそんな些細なことが多い。
 そのときは決まって、妬みを含んだ視線が多数こちらに向けられていた。見ないふりをしたものの気分のいいものではない。


 それなのに、どうして予想しなかったのだろう。

 帰る準備をしようと、机の中から教科書を出したら紙切れが一枚落ちた。
 "放課後、歴史資料室に来てください"
 折りたたまれた紙を開くとそう書かれており、差出人の名前はない。

 歴史資料室とは名ばかりの、あまり使われていない倉庫のような所だ。ともちゃんに相談しようかと姿を探したけど、当番の掃除にでも行ってしまったのか教室にいなかった。
 深く考えなかった自分を恨む。もう放課後だし待たせても悪いかと、指定された場所に向かった。

 待ち構えていたのは土方くんの親衛隊と名乗る人たちだった。どうにもこの状況はダメなやつだと気付きはしたが、逃げることができなかった。
 一通りみなさんから罵倒され、資料室に突き飛ばされてしまう。しかも外側から鍵をかけられてしまった。窓はないし、扉を叩いて声を上げてみるも誰かが来てくれる様子もない。

 立っているのにも疲れたのでその場に座り込んだ。室内を見回すとハシゴや踏台、そして年代を感じる冊子や、授業で使っていたであろう教材が置いてあった。
 使わなくなった資料なんかを一応、保管してあるのだろうか。やけに落ち着いて場所の把握ができたものの、

「…ともちゃん、帰っちゃったかなあ」

 出られないことに変わりはない。わたしが鞄を置いたまま教室にいないことに気付いてもらえれば探しにきてくれるかもしれないけど…また職員室に行ったって思われてしまえば最後だ。

「…どうしよう」

 もしそうなったとしたら…ここから出られないんじゃ…?
 手紙のことを誰にも言わないままここへ来たことを、心底後悔した。


………


「七瀬知りやせんか」

 放課後になって、受験勉強の息抜きがてらに剣道部の後輩の練習でも見に行こうかと土方と近藤、沖田の3人で話していたときのこと。

 その教室を覗く、ひとりの女子生徒の姿があった。沖田はそれに気付くと親しげに声をかけた。
 彼女の口からの第一声は「ななこいる?」だった。それを聞いた沖田は真っ先に土方を振り返ったが、問い掛けられた本人は首を横に振るだけだった。

「そっかあ、ありがとう。うーん、どこ行っちゃったんだろ」
「帰ったんじゃねえのかィ」
「鞄は置いたままなの。もしかして職員室かなあ…」

 その会話をじっと聞いていた土方はだったが、しばらく考え込んだあと僅かに目を見開いた。
 その微妙な変化を感じ取った沖田は、土方を振り返る。

「どうしたんでさァ」
「いや…なんでもねえ」

 宙を眺め、視線を彷徨わせる土方は、眉間に皺を寄せて不機嫌そうな表情を作った。

「先生に呼ばれてんの忘れてた。先に練習見に行っててくれ」

 残るふたりの返事を聞くよりも前に、サッサと足を踏み出したのを見て、沖田はにやりと笑う。

「おい」
「なによ」
「アイツの未来は明るいかもしれやせんぜ」
「ななこがどこにいるかわかるの?」
「いや、わかりやせん」
「じゃあ、なんで…」
「予想はつく。ただ俺が言いたいのはそっちじゃねえよ」

 きょとんとした表情を見せる女子生徒の顔を一瞥し、土方が出て行った扉を見やる。

「あんなの初めてなんでィ」

 腹の中に抱える黒いものがそのまま表情に出ていたが、女子生徒はそれを指摘する気になれなかった。
 はちみつ色の髪に甘いマスクを持つサディストは、いなくなった女子生徒より土方の見せる行動がおもしろくて仕方ないのである。

「たぶん七瀬は親衛隊とは名ばかりのカルト集団にやられたな。あ、ちなみにあんたが俺の親衛隊とやらになんかされるようなことがあれば、…まあ、その時になればわかりやす。安心しなせェ」
「逆に不安かな。はは」

 女子生徒は苦笑いと悟られないように口角を上げた。

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