コズミックガール | ナノ

Last

 土方くんは一体、何を考えているんだろう。

 なんとも例えがたい不思議な空気の中、学校に用のなかったわたしたちは、ふたりで帰ることになった。
 最初こそ会話が少なかったものの、徐々に弾みだし、最期には笑って話すことができた。結局また家まで送ってもらって、振り返った土方くんの背中を見ながらそう思う。

 家の中に入っても胸の高鳴りは収まらず、ご飯を食べてもお風呂に入っても、何気ない拍子にぽんっと彼のことを思い出してしまう始末。そのまま彼のことを考えていたら、ついには心臓が苦しくなるのだ。
 今までは、単に土方くんが外見、内面ともに最上級なせいで、彼の容姿に伴う言動に萌えているんだと思っていた。だけどどこか違ってきている。



 もう自分の部屋に行こうかと考えたとき、土方くんからシャツと、お礼のクッキーをもらって帰ってきたことをふと思い出した。
 それらをリビングにいたお母さんに手渡すと、「あら!」と短く叫んだあと頬を紅潮させていた。するとテレビを見ていた妹も寄ってきた。

「土方くん、だったわよね? ほんとイケメンだったわあ」
「お姉ちゃんが急に変わりたいって言ったの土方さんと出会ったからでしょ? いーなあ! わたしもあんなイケメンと仲良くなりたい!」

 当の本人はというと「うん」やら「まあ」やら適当な返事しかできなかった。そんなこちらの対応なんぞ気にもかけず、お母さんと妹は修学旅行の夜並みに土方くん議論を繰り広げている。

 確かに、土方くんのおかげでわたしは変わろうと思った。周りのサポートもあって、平均以下女子から平均並み女子になんとか昇格できたと思う。
 だけど、まだまだだ。美人からは程遠い、ぽっちゃりソフトぶすと普通のボーダーラインをさまよっているようなそんなレベルである。
 なのに、あの沖田くんの言葉はなんだ。土方くんのあの表情はなんだ。


 自分の部屋に戻って、久しぶりにゲーム機を手に取った。ぽちりと電源を入れてみる。しばらくプレイしていなかっただけで妙な懐かしさを感じた。
 オープニングのメロディを聞きながらボタンを押し進めていく。既存のセーブデータをローディングすると、タケルが優しい笑顔で迎えてくれた。きゅん、と胸が鳴る。
 でもさっきの土方くんのことを考えているときと心臓の痛みも動悸も違うなあ、なんて。

 もし、この気持ちに名前を付けるなら。その問いの答えはきっと"好き"だと思う。そう思うとなんだか急に恥ずかしくなって、ひとりでカーペットの上で転がった。悶絶した。

 まさかこんな自分に好きなんて言葉を当てはめられるような人が現れるとは思っていなかったよ。
 でもシャツはもう返してしまった。土方くんとの間に繋がりはもうない。シミュレーションゲームなら様々なラブハプニングが発生するが、これはリアルであって、そんなタイミングの良いことあるはずがない。ましてや親衛隊がつくほどの敷居の高いお方だ。

「…こんなの、どうすんのよ」

 土方くんと話をしているのが楽しくて、もう少し話していたいなあって思った矢先の八方塞がり。現実はやはりハードモードである。

 そんなとき、傍らに置いてあったスマートフォンが震えた。画面をつけて確認すると、ともちゃんからのメッセージを受信していた。

 "土方くんどうだった? また明日聞かせてね! 大丈夫、ななこ可愛くなったから自信持って!"
 そんな文面を見て、思わず苦笑する。

 洗面所に行き、鏡の前に立ってみた。確かに、数か月前まではこれよりもっと酷い顔の自分が、この鏡を見つめていた。
 だけど「見違えたな」といつぞやスーパーで出会った土方くんに言ってもらえた。「土方コノヤローが女に興味示すのなんか初めて見た」と沖田くんは言っていた。

 ぽっちゃりソフトぶすのわたしが、あのイケてるメンズの隣に立とうとしてもいいのでしょうか。

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