03
隣を歩く土方くんは、家まで送ってくれる気なのだろうか。沈黙が続くが、特にこれといった話題を出せるわけでもない。
どうしたもんかなと何気なしに見上げると、彼は先にこちらを見下ろしていた。
「ど、どうされましたか!」
「…前から思ってたんだが、なんで敬語で片言なんだよ」
「いや…特に理由はないんですが…」
「進路ことで怒られてんの見たし、同じ学年だろ?」
「はい、まあ一応…」
そういやそんなダメなとこを見られてたんだっけ…。
今さらながら恥ずかしさを覚えて、思わず目を伏せる。頭上から、ゴホンと咳払いしたのが聞こえた。
「…まあ、もうあんな死にそうな顔すんなよ」
「…そんなにダメな顏でした?」
「あのままフェンス越えて飛び降りんじゃねえかと思ったぜ」
「そ、そんなことしないよ!」
なんてこと言うんだと、背の高いその人を見上げる。土方くんはにやりと口の端を上げていて、茶化されていたのだと気付く。
「顔殴られた仕返しだ」
綺麗な笑みを浮かべながらそんなことを言うものだから、動悸ともに色んな感情が入り混じって、心も頭もパンク寸前だった。
だけど、言わなきゃ。
「あ、あのときは本当にありがとうございました! あの言葉をもらえ、い、頂けて! わたし本当に頑張れて…頑張れました」
何度も言葉に詰まりながらも感謝の気持ちを伝える。ずっと抱えていた思いを最大限に伝えたくて必死に言葉を選んだけど、自分の薄っぺらい語彙力ではありきたりな言葉でしか表現できなかった。なんだか虚しい。
「そんな言うなよ」
不意に目を覆われ、視界が真っ暗になる。驚いて歩みを止めた。何が起こったのかと後ずさる。
後退したことによって、自分の顔に被さっていたのが手のひらだと気づいた。
長い指の間から土方くんの顔が見える。さっきまでと変わらない表情。かと思えば耳が少し赤くなっているのに気付いて、この上なく萌えた。
こんな気持ち、どこかで、ーーー考え込まずともすぐに思い出した。ゲームの画面の中で不器用に微笑むタケルと、土方くんがリンクする。
外内問わずハイスペック。クールなのに照れ屋で、ツンとデレの両立が可能。そんな彼が実際に目の前にいて、小さく笑って…「ほら、行くぞ」なんて。
あれ、わたし…なんだか、すっごい女の子な体験してない?
「うっ…」
「おい、どうした?」
心臓が痛い。左胸を押さえていたら、心配そうな顔で覗き込まれる。至近距離で見る、イケメンのその上目遣いに自分のストッパーが決壊した。
「ぶはっ!!」
「ちょっおまっ、大丈夫か!?」
結果、わたしは勢いよく鼻血を吹き出した。伝う赤色が手のひらに付いたのを見、コットン買うの忘れた、なんて全然関係のないことを考えた。
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