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彼女に贈った一輪の薔薇の花弁がしおれてきた頃、それは突然だった。
空が鬱蒼としており、もうすぐひと雨きそうだなと感じるような日の朝に、彼女はオレにひどい頭痛を訴えた。
「なんか、割れそう…」
そう言いながら眉間にシワを寄せ、彼女は布団の中で丸まっていた。彼女が体調不良を訴えてきたのは初めてのことで、ましてや起き上がることもできなさそうな様子に心配が募る。
「病院行く?」
「んー…カカシさん、仕事は…?」
「一応朝からだけど、緊急じゃないし時間変えてもらおうか」
「それはダメ…寝てたら良くなるかもだし行ってきて」
彼女に視線を合わせるようにしゃがみ込み、その額に自身の手のひらを当てる。熱はなさそうだった。
「…今まで雨の前に頭痛くなるとかあった?」
「どうだろ…あんまなかったかなあ、」
あまり目を開けない彼女に布団をかけてから、少し悩んだ。それでも、彼女の言うとおりしばらくすれば良くなるのかもしれない。幸いにも今日は昼過ぎには終わる予定であったから、そのときに治っていなかったら病院に連れていこう。
時間をずらしたところで結局任務に行かなくてはならなかったから、薄暗くなっていく頃に彼女をひとりにするほうが不安だった。頭痛がする彼女のいる部屋に、照明をつける気にならなかったのもその一因にあった。
だから早く任務を終わらすために家を出た。扉を閉めながら、いつもなら玄関まで来てくれることとの差に少し寂しさを覚えた。
ーーーわたしは、ずきん、ずきん、と脈打つように痛む頭を抱えながらベッドの中で唸っていた。
痛む合間に、気がつけば、さあっと雨の流れる音がするようになっていた。レースのカーテンから透ける景色を薄目で見る。カカシさんの言うとおり、気圧の変化による頭痛だろうか。今までそんなことなかったのにと思いながら、それが原因だったなら見ていたくなくなって寝返りをうつ。そして弱まることのない痛みの波にただ耐えた。
どれぐらい時間が経っただろう。次第に、眠たくもないのにうとうとと傾眠しているような感覚になっていく。ひどい痛みに意識ははっきりしているのに、無理やり奥底へ引きずり込まれるようだった。
ふっと一瞬、意識を持っていかれるときに誰かに呼ばれているような気がする。ここに来る前の本当の名前を繰り返し囁かれているような気がする。
気がつけば体は重く、手足は動かせない。首を持ち上げることもできずに布団の中に沈んでいくようだ。
カカシさん。なんとか名前を呼べたような気がしたが、言葉として紡げたのか頭の中で思い浮かべられただけだったのかは判断がつかない。
そして、ぷつん、と切れた。
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