第四話 1-2

 兄の部屋で例の新刊を読みふけりながら、つい、攻めの表情をカカシさんの顔にすり替えてしまう。
 卑猥な言葉を、にやりと口角を持ち上げた嫌らしい笑みで吐くのを想像し、うんうんと頷く。穏やかに愛を深め合うのももちろんいいけど、滾(たぎ)る感情をその瞳に秘めながら詰め寄るのも悪くない。
 想像上の話でしかないけど…と考えていたらふと、以前までの妄想を思い出し、その続きを考えてしまった。



 ーーーふらり、とイルカの体が揺れる。喧騒の中でいるはずなのに少し前からそれを遠く感じていた彼は、手に持つお猪口を口元に寄せた。

 ふたりは天気の話から始まり、それぞれの仕事のことや近況、共通の知り合い…それはほとんどナルトの話だったが…そんな当たり障りない内容をゆったりと話していた。
 酌み交わしていたものはいつしか冷酒となり、カカシは顔色を変えないままだったがイルカはずいぶんと頬を朱に染めている。それに伴って緊張も表情も緩み、へらりと笑みながら相手へ問うた。

「どうして俺なんかを誘ったんですか?」

 イルカは何気なく聞いたつもりだったが、そう問われた本人は控えめな笑みを浮かべながら「そうですねえ」と言葉を濁した。
 きっと頭と理性がしっかりしていたなら空気を読み、それ以上追求することはなかっただろう。だが、本来ならその役目を担うストッパーすらも緩んでいたので、コン、とひっくり返した山形の陶器を机に置いたならずい、と詰め寄る。

「俺、本当に驚いたんですよ。全然話したこともなかったあなたに急に呼び止められて、何言われんのかなあって」

 肘をついて傾く体を支えているものの、その突っ張りが滑ったならテーブルに体の側面を付けてしまっている。大の男のそんな姿を見ながら、カカシは困ったように唸った。

「聞きたいですか」
「そりゃあ…聞きたいから聞いたんですが」

 伏せた睫毛は下眼瞼(したまぶた)に影を落とす。未だシラフのように見える男は、すっかり酔っている男のそんな様を見ていたが、おもむろに口を開く。

「ここじゃなんですし、移動しましょうか。イルカさんもずいぶん酔ってますしね」
「ああ…すみません…酒にはそう強くないもんで」
「そうみたいですねえ」

 ハハ、と笑うカカシはテーブルに置かれていた伝票を手に取って立ち上がる。イルカは焦点の定まらないような目でそれを見、制止するも背中を向けられて手を振られるのを見送ることしかできない。
 ひんやりとする木製のそれに頬を押し付けて、ズボンのポケットに入れてある財布を探す。結局酔っ払った自分の相手をさせてしまったんだからお金ぐらいはキッチリ渡さないと。そう考えつつも重い瞼を今にも下ろしそうになっているイルカは、その狭い視界のなかでカカシが戻ってくるのを見つめた。

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