その目が愛を求めたとき 01
 とあるマンションのエントランスでインターフォンのボタンを操作する。部屋番号を入力し、オートロックを解除してもらう。見慣れた所だけど、ここに来るのは久しぶりだ。
 エレベーターで目的の階まで上がり、305号室の扉の前でひと息。チャイムを鳴らすとガチャリと重々しい音を立てながら扉が開いた。そこから覗く顔はすぐに引っ込んで、その隙間から中へと戻って行く背中を追う。

 お邪魔します。いつも小さく声をかけるけど返事はない。ここに住んでいるのは彼、高杉くんひとりだけだ。


 1LDKのそのリビングは全くと言っていいほど生活感がない。テレビとソファ、床に敷かれたラグ。音楽が好きなのか壁側に設置された立派なコンポが存在感を放つ。インテリアらしいものはそれだけ。机すらない。
 二人がけのソファに腰掛ける高杉くんは、入り口で足を止めたわたしを不審そうに見た。ここで立ち止まり、用事を済まそうかと思ったけど、寄越される目つきに負けて隣へと座った。いつも大して言葉は交わさないので、今日も沈黙が続く。
 すると目だけでこちらを見やった彼はぐっと距離を縮めてきた。反射的に顔を逸らすと、近いままぎらりと光る隻眼。

 顎を掴まれて、無理やり高杉くんの方を向かされる。自分に拒否する権利が与えられることは少ない。だけど、今日はいつもみたいに現実逃避をするためにここへ来たわけじゃない。その意を込めて見返すと、いつもと違う雰囲気に気付いた彼は唇を薄く開いた。

「…なにか言いたげだな」

 促してくれるのは有難い。だけど高杉くんから出る圧倒的なオーラは引くことを知らず、なかなか話し出せなかった。ーーーだけど言わなくちゃ。
 縮められたふたりの間を引き離して、自分の手元を見つめながら強張る口元を動かした。紡いだ言葉は震えている。


 わたし、半年前から土方くんと付き合っています。

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