その目が余裕をなくすとき 01
「遅ェ、待ちくたびれたぜィ」

 靴箱に置き手紙。そんなものは漫画の中だけの話かと思ってたけどそうじゃなかった。

 今朝、靴を履き替えるときに発見したそれには時間と場所が記載されており、名前はない。呼び出されるような心当たりはないけど、それ以上は何も考えずに指定された時間に屋上へ向かった。するとそこには、はちみつ色の髪をした男子が待ち構えていた。

 土方くんと同じクラスの生徒で、その整った顔立ちは学年問わず、女子生徒に大人気だ。「沖田くんと一緒にいられるならセフレでもいい」なんて言っちゃう子もいると聞いて驚いたのを覚えている。

 そんな人がどうしてわたしをこんなところに呼び出したんだろう?
 差出人を実際に見てすらも、今こうなる理由がわからなかった。悩んだまま相手の出方を伺っているとそれは突然だった。

 手首を掴まれたかと思うとそのまま強く引かれて、今しがた入ってきた扉の裏側、ここに上がってこようともすぐに見えない位置まで連れてこられた。掴まれている箇所が痛い。

「アイツとはどうだったんで?」

 なんのことかわからないまま肩を突き飛ばされて、その場に尻もちをついてしまう。ずい、と詰め寄るその人は笑っていたけどゾッとするほど冷たい目をしていた。

「昨日やけに緊張した面だったんでついにかと思いやして」

 昨日は土方くんと付き合って半年の記念日だった。つまり初めて土方くんとセックスした日でもある。

 沖田くんは土方くんの幼馴染だ。自分の彼氏は彼の話をするとき嫌そうに眉間にシワを寄せるけど、気にかけているのを何回か見かけたし仲は悪くないはず。だから当然わたしが土方くんの彼女だと知っているし、少しくらいお付き合いの中身を話されていても不思議ではない。
 だけどこれは少々突っ込んだ質問すぎやしないだろうか。そんなものは男同士でしてもらいたい。とぼけて見せるもその口の端を持ち上げた、嫌らしい笑みは変わらない。

 怖い。そう思ったら、未だにコンクリートの上にお尻を預けたままだったわたしの上に遠慮なく跨ってきた。じいっと目の前で見つめられると、口をつぐんで相手の胸元へ視線を注ぐのが精一杯だった。

「…普通、なんだよなァ」

 それが容姿のことを言われているんだとすぐに気づいたけど反論する気にはならない。そりゃあこの人は最上だ。比較するのもおこがましいほど。

 ハッとして我に返り、そんなことよりもこの場の切り抜け方を、と必死で考える。

「なーんで土方はコイツに入れあげてんだか」

 ぬっと手が伸びてきて、しゅるりとリボンが外される。次の瞬間、セーラー服の前ボタンが弾けた。

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