その目が優しさで満ちるとき Last
 しばらくぬちぬちと音を立てながら触られて頭にモヤがかかった頃、指先は滑っておりていく。それは何かを探すような、おずおずとしたものだった。
 ある一点でぬるりと先が入っていく。押し入ってくる異物感に、わたしは力を抜くように息を吐いた。

 中を探られる。入り口から奥まで、そこがどんなところなのか指先の感覚だけで辿っているようだった。一本だったそれは増え、圧迫感も増す。視線を彷徨わせたら、今までに見たことない艶っぽいものとかち合った。

「七瀬、その…入れてえ」

 ハァ、とこれまた艶めいた息を吐いた土方くんに、大きな口で噛み付つかれた。下方でカチャカチャと金具のかち合う音がする。近くにあった黒髪に指を通すと、手のひらに頭を擦り寄せられた。…大きな犬みたい。

 熱っぽい視線がこちらへ向けられた。膝立ちになってカーゴパンツをずり下ろしている。開いたファスナーから主張するものが見て取れた。

 見下されているのに、変な気分。

「…優しくする」

 そのあとには、だから、と続きそうな気がした。リードしてくれているように思えて、主導権は自分が握っているよう。

 彼の方ももう、体のラインにぴったり合ったボクサーパンツ一枚だ。ウエストゴムに親指を引っ掛けると露わになる骨盤。下がる布地に、そこをじっと見ているのも変な気がして視線を逸らしてしまう。
 再度、わたしの上に覆い被さった土方くんにまた噛み付かれる。抱き締めるとお腹に熱いものが当たった。

 良し。彼はきっとそう言われるのを待っている。今にも破裂しそうな欲を抱えたまま最後の理性を皮一枚でなんとか繋ぎ止めている。
 なんだか笑ってしまった。可愛い、先ほども思ったそれがぽつんと浮かぶ。

 うん、いいよ。元よりそう返事するつもりだったけど、そうも待ち焦がれられるとくすぐったい。ーーーそんなこと思ってもらえる価値、ないのにね。



「痛かったら悪ィ」

 最初から最後まで優しい人。彼の、わたしの頭を撫でた手は枕元に伸ばされる。ごそごそと漁ったらコンドームを手に取って戻ってきた。土方くんが体を起こすのに習って、自分も同じようにそうした。
 袋を破いて半透明なそれを被せるところに視線を送ったままだったら「恥ずかしいから見んなよ」と目元を手で覆われてしまった。闇がちらついたら、ふと込み上がる。



「土方くん、幸せ?」

 自分の声が震えてないのに安堵する。

「おう、すげー幸せ」

 手のひらの陰から微笑む土方くんは本当にそう思っているようだった。それを見ていると、胸がズキズキ傷みだす。

「七瀬の初めて、大事にする」

 下は布団なんだから頭を打とうと痛くはない。なのに庇いながら押し倒してくれる。見下される瞳はしっとり濡れている。

 ごめんなさい。口には出せないそれを心の中で唱えた。

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