その目が優しさで満ちるとき 02
 土方くんと初めて手を繋いだのは付き合って3ヶ月経った頃だった。ハグされたのは4ヶ月の時、キスをしたのは5ヶ月の時。きちんと段階を踏んでくれるその人には誠実という言葉がぴったりだった。
 周りの友達が言うには、手を繋ぐなんてライトなことは付き合っていない時点でもう済ませるものらしい。付き合うってなった当日にキスしちゃうし"そのまましちゃったんだ"なんて子も少なくない。

 大事にされてることは言葉にされずともひしひしと感じていた。何か行動を起こすその前に一旦、間を置いてちゃんとこちらの気持ちを確認してくれるし、触れる手はいつだって少し震えていた。
 そんな周りとは一線を引いた、学生らしい清いお付き合いに不満はない。むしろこんなご時世にそうも我慢してもらえるとは有り難い話だ。こちらも別に先を急ぎたいわけじゃなかったし、土方くんも男の人なのだからいずれそうなるだろうと楽観視していた。

 だから、そんな彼に組み敷かれている今のこの状況に感想を述べるとしたら”ようやくか”といったところだ。

 首筋に吸い付かれたかと思うと、何か押し殺すような吐息が聞こえた。シーツと自分の背中との間に土方くんの両腕が滑り込む。背骨がしなり少々きつい体勢だった。体が押しつぶされそうなほど強い力で抱きしめられて、くぐもった声を漏らしてしまう。
 それを聞くなり圧迫は緩み、下敷きにしてしまっていた厚みも取り除かれた。肘をついて半身を持ち上げた彼は、わたしの前髪をかきあげて露出した額に口付ける。

「…耳、小せえな」

 視線を外した先で、たまたま目についたのだろう。二本指で摘まれる。普段あまり他人に触れられる部位ではないので思わず眉を寄せてしまった。それと同時に閉じてしまっていた瞼を押し上げると、口元を歪めた土方くんはじいっと見つめてくる。

「くすぐってえの?」

 素直に肯定したらそれは間違いだった。つつ、と触れるか触れないかの絶妙なフェザータッチでフチをなぞられたからだ。
 ぶる、と身震いするとそれを楽しむかのように息を吹きかけられる。隠そうと手を伸ばしかけるのを制止されてしまい、耳たぶに歯を立てられた。

 自分のを隠すのがダメならと相手の目元を覆う。そうするとようやく離れてくれたものの、手のひらにも唇を寄せられた。指同士が絡んだかと思うと、いわゆる恋人つなぎのままベッドに押し付けられる。

 視線が交わって、その憂いを帯びた眼差しに思わず息を呑む。そうしたら今度は唇を土方くんのソレで塞がれた。初めは触れるだけ。次は舌を入れて。こちらの様子を伺うように舌先が口腔を舐めるように動く。

 ハァ、と何度も吐き出されるそれは苦しげな表情といつもセットだ。名残惜しそうに離れたかと思ったらこつんと額を合わせて、土方くんはぎゅっと瞼を閉じる。

「…悪い」

 何で謝られたんだろう。その訳はするりと服の裾から手が侵入したことで理解した。…嫌じゃないのに。
 もっとガツガツ来られるのを想像していたけど敢えて間を空けられているような気がする。そこで勘付いた。恐らく、苦しげに吐き出すその息に湧き上がる欲を紛らせてくれているのだと思う。
 大事にするから。その言葉通り、怖がらせないように頑張ってくれているのだと思う。

 そのことに気づいた瞬間、言いようのない愛おしさが込み上げた。

 脇腹をなぞりあげ、下着越しにそっと触れられるのを感じた。指先に力が入って、形を確かめるように優しく揉まれる。

 伏せられた睫毛に指を這わすと余裕のない目で見られた。それはなんとも切なげだった。スリ、と頬ずりされて耳元でテノールボイスが響く。

「脱がせていいか」

 語尾は一応疑問系だったものの、すでに裾を掴んでめくり上げられるのに急いた気持ちを垣間見る。背中を浮かせるほうが早いか剥ぎ取られるほうが早いか、そんな勢いで上半身を下着だけにされると首に噛みつかれた。
 ちゅ、とリップノイズを立てて離れるとうなじに手を当てて上体を少し起こされる。

「どうやんだ、これ」

 背中を撫でられて、"これ"が金具のことだとわかる。ホックを、と口に出すと最後まで言う前に、抱き留められてその箇所をグイ、と後ろに引かれた。パチンと留め金を外れることによってアンダーバストを締め付けていた物がふわりと浮く。

 背中をシーツの上に預けたら、熱っぽい視線が自分の胸元に注がれているのに気づいた。また、堪えるように瞼をぎゅっと閉じる様を見、可愛い人と思ってしまったのは口に出さないほうがいいかもしれない。

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