その目が愛を求めたとき 02
「………は?」

 たっぷりと間を置いてから、本当に意味がわからないというふうに声を発した高杉くんは珍しくその目を見開いていた。
 表情の変化があまりなく、いつも何考えているのか読み取れない。今のはきっと驚き。だけどすぐにいつも通りの顔つきに戻って、黙り込んでしまう。

「半年前っていやァ俺がお前に連絡しなくなった頃か」

 わたしと高杉くんの関係性とは? そう問われたならなんともいえない答え難さを感じる。
 セックスフレンド。恐らくそれがぴたりと当てはまるこの関係は、自ら望んでそうなったわけではない。たまたま、だ。タイミングがそうさせてしまった。

 高杉くんはまた沈黙する。饒舌に語るところは見たことがない。一緒にいる時間は言葉もなくいつもぼうっとして過ごすことが多いけれど、あえて作り出す静寂というものは気まずいものなんだと知った。

「…で、俺とはもうヤれねえと?」

 一度頷いて見せる。すると「へえ」と相槌を打って、ソファに座り直して前を見据えていた。

 どれぐらいの時間をそうしていただろう。やおらに高杉くんが少し動いたら、座っていたソファのスプリングが跳ねた。ギシリと鳴った濁音は自分たちの間に漂う空気を表すかのようだった。
 それ対して肩を震わせるという、あからさまな反応してしまったわたしを横目で見、彼はゆるりと口角を持ち上げる。

「ふざけんのも大概にしろ」

 急に腕を引かれて、床のラグの上へと落とされた。ガツンと、わりと強めに頭を打ってしまって目の裏がチカチカした。体の上に重みが乗る。咄嗟に瞑っていた目を開けたら、ぼやける視界の中に未だ口角を上げたままの高杉くんがいた。
 笑った彼を見るのは珍しいわけではない。だけどなんだかそれが怖く感じた。

「俺から連絡来なくて寂しかったか? …その穴埋めに付き合ったって話なら許してやらァ」

 そのセリフが引っかかる。…許すも何もわたしたちは、ただお互いの隙間を埋めるために会っていたんじゃないのか。

 わたしの顔の横に手をついて瞬き少なく見下されると、じっとりした汗をかいた。それでも何か反論をと口を開いたら、待ってましたと言わんばかりに唇を寄せられた。無防備に開けていた口内に入り込む舌は、いつもよりやけに丁寧に優しく、わたしのそれを絡め取った。
 キスをしながら、腕が背中に回る。抱きしめられたのだと気づくのに時間はかからなかったが、なんだかその行為が恋人にする温かいものように感じた。

 息が上がるぐらいの長い時間、口づけを交わした。至近距離で見る隻眼の瞳は濡れている。そんな熱の籠る眼差しに、変に心がざわついた。この人がどこかいつもと違うことはわかるのだけど、それはどうしてなんだろう。

 きちんと話をしないといけない気がした。先ほどから引っかかる言葉の意味を理解したかった。それにはこの物憂い雰囲気をどうにかしないといけない。だから覆いかぶさる体を押し返した。…だけどその行動がどうも癪に触ったらしい。

「何が気に入らねえんだよ」

 胸を押していた両手を掴まれて、頭上でひとまとめに固定されてしまった。待って、と制止するもやめてはくれず、首筋に顔を埋められる。唇の這うその感触に背筋がぞくりと震えた。

 突然、チクリと痛みが走る。顔を離してその場所を見つめられたかと思うと、空いた手の先で痛みの走った部分をなぞられた。そしてその行動は繰り返される。

「土方とはヤったのかよ」

 その問いを投げかけた本人はもう、わたしの着用しているカットソーを捲り上げている。こちらの返事を待つ気もないのか矢継ぎ早に、露わになった乳房に吸い付いた。パッと赤い花が咲き、今までの痛みもこれだったのかと気づく。

「聞いてんのか」

 その合間に低い声で凄まれて、小さい声で肯定した。それを聞いた高杉くんは顔を歪ませた。ーーーそして何故か笑った。笑っているのにどこかさみしそうな表情でもあった。

 返事はない。背中に手を入れてブラのホックを外したかと思うと、ズラした布の下へ舌を這わす。また甘い痛みがやってきて、思わず身体をよじる。次にやってきたのは身も心も溶けそうな快感だった。

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