その目が弱みを握るとき 03
 髪の先みたいな細さで理性をなんとか繋ぎ止めながら、自分の口から声が漏れそうになるのを必死で抑える。
 ここは学校で、扉を一枚隔てた廊下を誰かが通るかもしれない。バレちゃいけない、声なんて聞こえちゃいけない。その一心だった。

 ショーツをずりおろし、そこに直に触れた指はぬるりと滑る。それで自分がもうしっかりと濡れていることに気が付いた。大した愛撫もされていない。何度かキスをされ胸をまさぐられ、耳元で低く囁かれただけだ。それだけで指の一本や二本、簡単に侵入を許すほどそうなっている。

 戸惑った。自分はそんな恥ずかしい女になってしまったのかと。

 壁をなぞるように2、3度出し入れされたかと思えば、親指で敏感な突起を押しつぶされる。乾いていたなら痛みを感じるほどの強さだったと思うが、纏う湿潤のおかげでそうはならない。
 突然やってきた刺激に息が跳ね、そんなわたしの反応を見る先生はとても楽しそうだった。しばらく撫で回されて唇を噛みながら耐えていたら、彼は思いついたように言う。

「膝、立てて」

 膝裏に手を入れられてすぐにでもそうされそうだったけど、さすがに渋った。だって先生は、ソファの上に足裏をつけて開脚しろと言っている。そんなことをしたら見られたくないところが丸見えになってしまうじゃないか。
 そうした先にはここと廊下とを繋ぐ扉がある。真正面じゃないとはいえ、あそこがもし開いたら…、

「じゃあ気持ちよくはなれねーなァ」

 そんな声とともに指は離れていく。体に熱だけ残されて、また戸惑う。求めるように見上げたら、ニッと口角を持ち上げた、意地悪く笑った顔がそこにあった。それはゆっくり近づいてきて、耳にキスを落とした。リップノイズがよく響く。尖らせた舌先でその縁をなぞられて、くすぐったさに首を傾けて逃げた。

「いいの? 火照った体でこのまま帰ることになるけど? …あ、でもななこちゃんはオナニー得意だから大丈夫か」

 囁かれる言葉に、目を見開いて固まってしまった。

「ここ、一生懸命触ってさァ」

 掠める程度に触れられて腰が引ける。それだけでも甘い声を漏らしてしまうほど感度は高まっていたけど、頭の中はやけに冴えていた。ーーーその口ぶりが、実際に見ていたかのようだったから。

「そんな気持ちよかった? 結構大きい声で喘いでたけど」

 そんなことしていないと、勝手なことを言わないでと否定できないのは思い当たる節があるからだ。

 音を立てて耳を舐められる。濡れそぼったそこを触っていた指が未だ濡れたまま、乳首を執拗にこねている。興奮は高まって気持ちいいとは思うけど焦れったい。
 もっと触ってほしい、もっともっと快感に身を委ねたい。冴えた思考なんか一気にバカになった。

「そう、その顔…最高にソソる。それを間近で見たくてこんなことしちまったんだけど、やべーかな、ここ学校だし」

 触れるだけのキスをされて、鼻先が触れそうな距離を保ったまま先生は笑う。

「俺、見てたんだよ。ななこちゃんさァ屋上で沖田くんにジイコウイ、させられてただろ?」

 そうして全てを理解する。この人は知ってて引き止めたんだ。目ざとく手首の痣を発見できたのも、そうなる原因を見ていたから。そのまま遠くから見てるだけじゃ飽き足らず、実際にそうするためにわたしをここへ誘った。

「沖田くんも絶対興奮したよなァ。あんな場所で土方くんの彼女寝取って、しかもすげーイイ顔で誘われんの。最後ガマンしきれてなかったじゃん。青いねー」

 くすくすくす。楽しそうな笑い声を聞きながら、わたしは今まで経験したこともないような羞恥心に襲われて手のひらで顔を隠すばかり。カリ、と耳を噛まれて、それだけで肩がピクリと反応する。

「だからほら、できるだろ? そうすりゃ気持ちよくしてもらえるんだからアイツより良心的だと思わねえ?」

 熱くてたまらない恥部に指が這わされた。神経の集まった敏感なところも、挿入を今か今かと待ちわびるそこもただ掠められるだけで、先ほどから一向にオーガズムを迎えられない。

 ハァ、と溜め息に近いものを吐いたときにはもう諦めていたんだと思う。ーーー恐る恐る片膝を立てた。顔は上げられない。

「もう片方も」

 この声は最初からわたしに有無を言わせないものだった。自分の魅力をしっかりわかっているかのようで、こちらをしっかり捕らえて離さない。だから、従う他なかった。

「はい、よくできました」

 さっきもそう褒められたなあと思い出したら、次の瞬間にはもう訪れる快感の波に飲まれていた。あまりの気持ちよさにだらしなく口が開いてしまって、手で押さえて声が漏れないように努める。

「この距離からでも濡れてるのわかるんだけど。ほら、見てみ? ぬらぬら光ってる。やらしーなァななこちゃんは」

 耳からも責め立てられて、顔から火が出そうだった。そうして足が震えて、ひときわ大きな波が迫ったときだった。ガチャ、ガチャ、と目の前の扉が音を立てたのは。

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