*酷い男につき注意*
 さて、どうしたものか。ふう、と思わず息をついてしまった自分をたしなめる。

 大して親しくもない男の下で裸体を晒し、息荒く呼吸する女性をただ見下ろした。俺はというとマスクひとつ、ずらしてさえいない。
 前戯。そう呼ばれるものはひと通り行ったあとだったが、そこで問題は起きた。最終段階に踏み込むために必要である、自分のそれが全く反応していない。
 それを元気にさせるには自分で扱うか、力なく横たわる彼女に触れてもらうかだ。前者は気分が乗らない。となると後者なのだがそちらは、…というかむしろどちらも、彼女の女としてのプライドを傷つける自信しかない。

 そうなってしまうと考えられる要因はふたつ。ひとつめは興味のない女のあられもない姿を見ても、反応しないような歳になったのかもしれないということだ。それはそれで傷つくが、まだ諦めのつくほうである。
 タチが悪いのはふたつめ。こんなのよりずっと、抱きたい女性がいる、ということだ。

 あの子はきっと、こんな大胆に乱れたりしない。大きな声を上げたりしない。恥じらいで真っ赤に染めた頬と潤んだ目を隠しながら、漏れる吐息に紛れさせるのが精一杯のはずだ…と、つい想像してしまったらある異変が起きた。うんともすんとも言わなかったものが少し熱を帯びたのだ。
 決して機能不全ではなかったのだと安堵の息を吐きつつも、男としての尊厳を守るために取るべき道はひとつだということを悟る。

 汗で湿った肌に手を伸ばす。ある2点に触れながらそっと目を瞑った。彼女は先ほどと同じように喘ぐ、喘ぐ。あとはそれを脳内で必死に変換するだけ。
 実際にあの子とセックスをしたことはない。想像で、妄想だった。自分の中で理想を作り上げ、彼女を次第に淫らにさせていく。ーーーハァ。思わず息が上がるほど、今までにない興奮を覚えた。気づけばもう十分なほど固くなっている。
 なんだ、こんなに簡単なのにさっきはどうしてこうならなかったんだろう。萎えてしまう前に、となんの合図も出さずにねじ込んだ。

 腰を打ち付けたらさっきよりもずっと大きく上がる声をどうも耳障りに感じて、薄目を開けてその口を手のひらで塞いだ。そうしていたら想像上の彼女の喘ぎ声に似ている。それだけで更に興奮が高まった。くぐもった声に満足し、無我夢中で続ける。

 好きだ、大好きなんだ。こんなにも愛している。他の男の隣で可憐な微笑みを浮かべるお前のことを、どうしようもなく想っている。考えない日はない。
 正面に立って会話すれば、すぐにでもこの気持ちを伝えたくなる。引き寄せて唇を合わせたくなる。腕の中に捕らえられたなら最後、きっと離したくなくなるんだ。

 ドクンと脈打ってそのまま中に欲を吐き出して、あ、避妊してないとかなんとか考えたケド、取り繕う気にはならなかった。



「ーーー最低!」

 バチン! と勢いよく頬を叩かれる。涙を流し、怒りと悲しみで顔をクシャクシャにした彼女は、適当に服を着るなり出ていった。

 そっちだって、気持ちなんか微塵も添えられないこの行為に同意してここに来たんじゃないのか。いや、そうは思っていても優しく抱かれることにどこか期待していたのかもしれない。
 そんなの、こっちだってそう思っていたさ。彼女をベッドに組み敷いて匂いを嗅いで、肌の温もりを感じるその間際まで、優しくしてやれると思っていたよ。

 ま、無理だったんだけどね。

20180519
   
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