ある昼下がり。珍しくカカシと非番の日が重なって、とりあえず彼の家へと集合した。だけどふたりともアウトドア派ではなかったので、簡単に昼食を作って食べてからそれぞれ読書をするというありふれた休日を過ごすことになった。
 さも難しい本を読んでいるように見せかけて"イチャイチャパラダイス"というタイトルには呆れたが、本人曰くとても面白いものらしい。ちらりと盗み見たことがあるがなんともエロス溢れる文章だった。…まあ、人の趣味に口出すこともないだろう。

 しばらく読書に集中していたが、ちょうど一章読み切ったところで顔を上げる。しん、と静まる室内に秒針が時を刻む音だけが響く。コーヒーでも飲もうかと立ち上がるときにカカシを見やったけど、こちらを気にする素振りもなく真剣な目つきで手元に視線を落としていた。

「飲む?」

 コト、とマグカップをテーブルに置くと「ありがとう」と言葉だけ返ってきた。顔は上げない。椅子に座ってそれをじっと眺める。
 暇だなあ。せっかく一緒にいられるのに。…まあ、別にいつもこうだし慣れてるけど少しぐらい構ってくれてもいいじゃないか。

 なかなか冷めない、真っ黒なそれに手こずりながら窓の外へと視線をやる。いい天気だ。お散歩とか誘ってみようか。でもいつも私からだしたまには彼から誘ってほしいけど…まあないな。

 なかなか飲み進められないコーヒーは諦めて、ベットの縁に腰掛けたカカシに近づく。

「ねえ」
「なあ、に!?」

 また顔も上げないので飛びついてやった。後ろはふかふかのベッドだし、頭や背中を打ち付けても痛むことはないだろう。急に押し倒されて目を白黒させているその顔を目の前で見つめる。
 じーっと見てやると何を思ったのか、腰に手が添えられ、撫で回される。ぐるりと体勢が反転して、今度はカカシに見下されることになった。彼は、休みの日でもつけたままのマスクをゆっくりとずり落ろし、触れるだけのキスをした。そしてそのまま唇は私の首元へ、、、

「って、違う違う! なんでそうなるの!」
「え? 違うの?」
「もーすぐそうやってベッドの中に引きずり込むんだから」
「今のはななこが引きずり込んだんでしょうよ」
「…そうだけど! 違うよ、わたしはただ…」
「ただ?」

 その続きを言うのが急に恥ずかしくなって黙り込む。それを促すように「ん?」と首を傾げるその仕草にきゅんと胸が鳴る。

「…カカシに、構ってほしかったの」
「うん、知ってる」
「っもう、わざとだったんだ!」

 本ばっかり読んで顔も見てくれないのも、言わせたいがための布石。照れくさくて彼の顔が見れなくなった。腕の中から這い出ることは難しいから、せめてもの抵抗でうつ伏せになる。シーツの波に顔を埋めながら不貞腐れる。

「ごめんごめん、俺、ななこが構ってって言いに来るときの顔好きなのよ」
「…でも私だってカカシから言ってくれるの待ってたよ」
「次は俺から言おうか?」
「絶対言わない。賭けてもいい」
「信用ないねえ」

 指先がうなじに触れて、かかる髪の毛を取り払われる。背中に重みが乗って、首筋に温もりが触れた。ちゅ、と音が鳴って、そこにキスされたことに気づく。

「ほら、顔上げて。散歩でもしたいんじゃないの?」
「…どうしてわかるの」
「お前の考えてることはすぐにわかるよ」

 カカシは私の横に倒れ込み、ベッドが揺れる。うつ伏せのまま顔だけでそちらを見ると、仰向けのまま顔だけでこちらを見る彼の姿があった。手を伸ばして服の裾を引っ張ると、すぐにそれを大きな手のひらで包み込まれる。ーーー温かい。

「お散歩したいなって思ってたけど、ちょっと眠たい気もする」
「じゃあ少し寝てから行こうか」
「くっついてもいい?」
「ま、何されてもいい覚悟があるならどーぞ」
「ええー夜もするんでしょ? カカシ大丈夫?」
「…その気でいてくれるのは嬉しいけど、ちょっと見くびりすぎじゃない?」

 むくりと上体を起こした彼は、私の両脇に手を入れて軽々と持ち上げてくれた。そのままあぐらをかいたそこへ座らされて、後ろからキツく抱きしめられる。

「眠たいなんて言えなくしてあげる」





 その夕方、カカシに揺り起こされて、すっかり日が落ちたのを見て絶叫する。

「お散歩できなかった! カカシのバカ!」
「挑発するななこが悪い」

 昼間に淹れた、すっかり冷えたコーヒーをすするカカシは「また今度ね」と私の頭を撫でた。
20180430
   
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