全ての講義を気力で受け終え、バイトもないので真っ直ぐ家へと帰る。ようやく同世代だらけの空間から抜け出せた。スッピンも寝癖の跳ねる髪も、自分のだらけた部分を見せているようで恥ずかしさしかなかった。周りはばっちり身なりを整えていたので余計にそう思ってしまう節もあったけど。
そんなことを考えながら待望の、慣れ親しんだ部屋の前に立つ。
長かった。ここまでの道のりが本当に大変だった。安息の地に飛び込むために必要な、家の鍵を取り出そうと鞄の中を手でまさぐった。
「…あれ」
中身の少ないその中を探せど探せど、想像しているものが指先に当たらない。おかしいなあと首を傾げながら、肩にかけていた鞄をおろし、光を取り込みながら覗き込む。
ない。迷子防止のキーホルダーをつけた、銀色がどこにも見当たらない。側面の仕切りにもいちばん底にもノートの隙間にも筆箱の中にも、ない。
変な汗をかきながら、最後に見たのがどこだったのか必死に思い出す。…それ以前に今朝、わたしはここの鍵を本当にかけただろうか?
そういえば、あの人に投げた。起きたところだったからまだいるんだろうって思って、その人が出ていくときに施錠してもらわなきゃとも…思って…、
目の前にある扉が急に物々しく見えた。さっきまで輝いていたのに今は暗雲が立ち込めている。手を伸ばしてドアノブに触れるとひやりと冷たい。自分の手のひらは汗でじっとりと湿っている。
力を込めて捻れば、簡単にカチャリと開いた。