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「え、えーと…いたことないけど…どうしたの急に」

 目の前の球体を無駄にひっくり返してしまう。せっかく上げた顔をなんとなく伏せてしまった。

「や、うん、そうだろうなとは思ったけど、…わりい、ちょっと変な話するわ」

 わたしが上手く返事できないでいると、坂田くんは言葉を選ぶようにゆっくり話し出した。

 ーーー今日のたこパ、最初っから来ねえって言った奴らさ、ちょっと前から付き合ってんだってよ。で、友也は友美のことがずっと好きなんだと。それは俺も最近知ったんだけど、そろそろ告白するってこの前息巻いててさァ、たぶん今日がそうだったんじゃねえかと思う。で、

「俺の噂、知ってる?」
「…来るもの拒まず?」
「ああそれ。大学入学してすぐぐらい、告白されたの断ったらすげー泣かれたことあって。こんな顔させるんならちょっと付き合うぐらいまあいいかァ…と思った結果、そんなふうになったんだけど」

 ふうん、と平静を装って返事したけど、そんな過去があったからとは知らなかった。自分は坂田くんのことをよく知らなかったのだなあと改めて気付かされる。

「この前友美とヤっちまって、」
「へえ、何を?」
「や、ヤるっていったらまあ…言わせんなよ」
「えっ坂田くんが話しだしたのに?」
「そんっな冷てえ言い方されたら俺泣いちゃう」
「ご、ごめん…」

 ーーーまあ、それでたぶん友也と友美は俺のせいで揉めてんじゃねーかなーと予測がついた。さっき。友美から会いたいってライン来た。返事はしてねえ。

「…そう、なんだ」
「俺、結構ひどいやつかもしれねー」
「うん、だいぶね。わたしのことは振っておきながらね」
「…今からそこ触れようと思ってたんだけどなー。プレッシャーやべーなー」
「もう今さらじゃない?」
「否定できねーよ。…で、さっきの質問に戻るわけ」
「…わたしが彼氏いたことないってやつ?」
「そ」

 与えられる情報が多すぎて頭が混乱気味だった。グループ内がそんなことになっていたとは全く知らないし、それらの気配に勘付いてもいなかった。絡まっていた思考は飛散していき、あとは愕然とするだけだった。
 自分だけピュアに片思いしてたと思いきや、カップルができるところまで進んでたなんて……と考えたあと、もっと重要なことに気がついた。

 それって友美は、、、

「なんとなくななこちゃんがそういうのに疎そうだなーとは思ってた。俺、適当に良いように言っちまうし好かれてるような気ィしてた」
「なにそれ、恥ずかしい」
「だから断ったんだよ」

 ーーーななこちゃんは適当に付き合うとかしちゃいけねーなーって思ったんだよ。俺に寄ってくる女の子たちとはどっか違うなと思うわけよ。

「なのに普通に接してくれてありがとな」
「…ううん」
「俺のせいでちょっとややこしーことなるかもしれねえ」
「そっかあ…わたし、なんにも知らなかったなあ」

 まん丸のホットケーキを鉄板からくり抜いて、小皿へと移す。何個か取り出して坂田くんへと渡すと、いつもと何ら変わりのない気だるげな表情をしているのに気がついた。

「純粋そうだし、言えなかったんじゃね?」
「…じゃあ坂田くんはどうしてその話、わたしにしようと思ったの」
「なんか話さなきゃいけねー気がしたんだよ」
「うん…教えてくれてありがとう。明日からどうしようか真剣に悩むことにする」

 口に放り込んだそれはとても熱かった。涙が出そうになった。ぐす、と鼻が鳴ったのはこの部屋が埃っぽかったからということにしたい。

「友美のところ行かなくていいの」
「…今はななこちゃんのほうが大事」
「…もう! そういうとこだよ! 元気なわたしよりきっと泣いてる友美でしょ?」
「行ったら俺、たぶん友美と付き合う」

 持っていた箸を落とすかと思った。どうしてそんなことを言うのだろう。振られたわたしが、そんなことを宣言されないといけないんだろう。

「それは…どうなろうと坂田くんと友美の問題だよ。わたしはもう振られたんだし関係ない」
「…ほんと、ななこちゃんってさァ」

 下心、ないよね。そう、無遠慮に放り投げられた言葉に、何故だかわからないがとても腹が立った。反論もできないのに口を開いたけど、やっぱり彼を責める言葉は出ない。

「…帰る。ごめん」

 鞄を引っ掴んで、彼の部屋を後にする。そうなって、ようやく涙が出た。

 
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