花だより‐藤‐
初夏間近の風に薄紫色の花房が揺れている。
桜のような華やかさや散り際の潔さは無いものの、上品な花色や佇まい、たった数日で色褪せてしまうその儚ささえ花を引き立たせる為であるかのように思えて、なまえは愛おしげに藤棚を眺めていた。
「そんな所で何してるの」
『へ!?…あ、雲雀さん。見て下さい、藤が盛りですよ』
「藤?」
差された指に導かれる様に目を遣れば、なるほど綺麗に色付いた藤の花がいくつも垂れている。
『去年は気付いたら花終わっちゃってたんで、今年は見られて良かったです』
「ふぅん…そんな事より君は何の為に学校に来てると思ってるのさ」
『雲雀さんのお手伝いをする為です!分かってますよぉ………GWなのに…』
「何か言った?」
『いいえ!何にも!さぁ早く応接室に行きましょう』
花なんかに嬉しそうな顔を向けているのが何となく気に入らなかった…なんて事口に出来る筈もなく。
先を行くなまえの背中を眺めながら雲雀も応接室へと足を向けた。
カチカチと時計の秒針が時を刻む部屋の中、紙擦れとペンを走らせる音だけが聞こえている。
作業を始めてどれくらい経った頃だろうか。
区切りのいい所まで終えたなまえはホッと息をついて未だ書類に向かっている雲雀に声を掛けた。
『一息つきませんか?お茶、淹れますよ』
「うん、そうしてくれる」
急須に茶葉を入れ、少し冷ました熱湯を注ぐ。
後は少し待つだけ…その様子を眺めていた雲雀が今度は声を掛けた。
「ねぇ」
『はい?』
「花見、してもいいよ」
『…え?お花見…ですか?』
突然、花見などと言われ首を傾げるなまえ。
「藤…見たいんだろう?」
『!…い、いいんですか!?』
「休憩の間くらいならね。お菓子もあるし」
『…はいっ、ありがとうございます!雲雀さんっ』
今度は自分に向けられた嬉しそうな顔に少し気分を良くして、雲雀はなまえと共に藤を堪能したのだった――――
「たまには藤で花見ってのも悪くないね」
『はいっ』
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