バレンティーノ






発祥の地、ここイタリアでバレンタインといえば愛する恋人同士が贈り物をしあう日。


当然というかそんな相手のいない人間にとっては特に何をするでもなく過ぎてしまう一日なはずなのに……






『なんで私は義理チョコ作りに勤しんでるんだろう…?』





バレンタイン前日―――

広い、しかしすっかり使い慣れた厨房に甘い香りが漂っていた。


温めた生クリームに刻んだたっぷりのチョコレートを混ぜて溶かし、それを冷やし固めてココアパウダーをまぶせば生チョコレートの出来上がりだ。



チョコレートを流し込んだバットを冷蔵庫に入れれば後は待つだけ。


一息つこうかとコーヒーを淹れたところに骸さんがやってきた。



「おや、良い匂いがしますね」



まだ残る甘い香りに目を細めて笑む。



『チョコレートは明日まで待ってて下さいね。骸さんもコーヒー召し上がりますか?』


「頂きます」




二人分のコーヒーを持ってリビングへと移動した。









「去年のチョコレートケーキも美味しかったですけど…今年は何を作ってたんですか?」


『今年は生チョコにしてみました』


「それは楽しみですね」



骸さんはそう言ってクフフ…と楽しそうに笑う。



そもそもの発端はこのナッポーだった。



チョコレートが好物であるらしい彼は、ここはイタリアであるにもかかわらず私が日本人だと理由でしつこくチョコレートを要求してきたのだ。
一応、ご主人様の要望とあっては無視する事も出来ず私は皆さんにチョコレートケーキを作った。


それが去年の事。


それに味をしめたのか、バレンタインが近づいて来た先日
「今年も楽しみにしてます」
なんて言われたものだから今年も作らざるを得なくなってしまったのだ。




『なんでイタリアで義理チョコなんか…』



再び口をついて零れた呟きは骸さんの耳にも届いてしまったらしい。



「おや、義理チョコなんですか?」


『義理チョコでしょう』



本当ならあげるつもりなんてなかったのだから。



「本命チョコはあげないんですか?」



本命…? 誰に?



『そんな物あげる人なんているはずないじゃないですか』



そう返せば、
「へぇ…そうですか」
と何やら意味ありげにニヤイヤな笑みを浮かべていた。


なんなんだ一体!





『骸さんこそバレンタインを一緒に過ごす人はいないんですか?』



骸さんに限らず、ここの人達に恋人がいるという話は聞いた事がない。
愛人がいると公言しているリボーンさんを除いては。

クリスマスだって皆さんと一緒に過ごしたのだ。


皆さんいい歳なんだから、恋人や愛人がいてもおかしくないと思うのだけど…。




「クフフ…可愛いですねなまえ。ヤキモチですか?」


『あははー違います』


「安心して下さい、僕はなまえ一筋ですよ」


『ウフフ…謹んでご遠慮申し上げます』


「恥ずかしがり屋さんですね☆」


『………』



ホント骸さんと話してると、どうしてこういう展開になるのだろうか…。



『あ、でもクロームちゃんには友チョコかな』


「それは妬けますね」



言葉とは裏腹な優しい笑顔で言った。





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