幼馴染から恋人に変わった日


キーンコーンカーンコーン。
6時間目の終わりを告げるチャイムが鳴り、みんな帰り支度をしてぞろぞろと教室を出て行く。
私も教科書を鞄につめこんで席をたった。

「カルマー起きて。帰るよー」

一番後ろの席で机に突っ伏して寝ているカルマに声をかける。

私とカルマは幼馴染で家も隣同士のため、登下校はいつも一緒だ。
授業終わりに寝ているカルマを起こすのも、恒例の私の役目になっていた。

「カールーマー。ねえってば」

全く起きる様子がないので軽く肩をゆすってみる。

「んー……ねむ……」

ようやくカルマはゆっくりと顔を上げ、眠たそうな目でそうつぶやいた。

「やっと起きた。ほら、帰るよ」

私がそう促すと、カルマはふわぁと一つあくびをして、だるそうにしながら席から立ち上がった。




旧校舎を後にして、二人並んで山道を下る。
E組の校舎は山の上にあるため、通学のためには1kmの道のりを登り降りしなければならない。
毎日のことなのでもう慣れたとはいえ、やはりしんどいことに変わりはない。

「随分と重そうだね?」

カルマは私の鞄に視線を向けるとそう言った。

「もうすぐテストだから、教科書全部持って帰ってるの」

私の鞄は教科書がぎゅうぎゅうに詰め込まれ、パンパンに膨れ上がっていた。
この重い荷物を持って山道を下るのはなかなかの重労働だ。

「そんなに持って帰ってどーすんの」

「勉強するに決まってるでしょっ」

私の鞄とは正反対に、カルマの鞄はすごく軽そうだ。
頭の良い人はテスト前に教科書を持って帰る必要がないらしい。
恨めしそうな視線をカルマに送っていると、突然ひょいと鞄を取り上げられた。

「ほら、貸して」

途端に手が軽くなる。

「……持ってくれるの?」

「しょーがないからね。はい、こっち持ってて」

そう言って、代わりにカルマの鞄を手渡された。

「軽い」

「こっちはめっちゃ重い」

そんな事を言いつつも持ってくれるのだから、なんだかんだでカルマは優しい。

「ありがと、カルマ」

私は笑顔でカルマにお礼を言った。

「どーいたしまして。貸し1ね」

「ええっ! そんなの聞いてないよ!」

前言撤回。カルマの優しさには裏があるのだ。

ケラケラと笑うカルマを軽く睨みつける。

「それにしても、カルマの鞄軽すぎ。勉強道具ほんとに入って……ん?何これ」

カルマの鞄のポケットから、カルマには不釣り合いな花柄の封筒がチラリと見えた。

「あーそれ……なんか本校舎の女子から渡された」

「も、もしかして、ラブレター!!?」

「うん、まぁ」

テンションの上がる私に反して、カルマの口調は冷めている。

「で、何て書いてたの!?」

「別に、普通に"好きです付き合ってください"みたいな……」

「おおぉ……! つ、付き合うの!?」

「付き合わないよ」

「えーなんで!」

「好きでもない子と付き合うつもりないし」

生活態度は不真面目なくせに、恋愛に関しては案外真面目らしい。

「そっかぁ。じゃあカルマはいるの?好きな人」

話の流れでなんとなく聞いてみたが、そういえばこういう恋愛に関する踏み込んだ話をカルマとするのは初めてかもしれない。

カルマはちらりと横目で私の方に視線を向けると、

「いるよ、好きな人」

と、淡々と答えた。

「そっか、いるんだ。…………えっ!? いるの!!?」

私は驚きで目を見開いてカルマの方を見る。

カルマとは長い付き合いだが、好きな人がいるなんていうのは初耳だ。
昔からカルマはよく告白されたりしていたらしいが、一度も彼女というものを作ったことがなかったのでてっきり恋愛には興味がないタイプなんだろうと思っていた。
そんなカルマにまさか好きな人が居たとは……。

「ねぇ、その人って誰!? 私の知ってる人!?」

私はわくわくしながらカルマに問いかけた。
カルマは「はぁ」と小さくため息を吐く。

「知ってる人だよ」

「じゃあ、この学校?」

「うん。同じクラス」

「えぇーっ!!」

私は驚きのあまり声を上げた。
E組の女子の中にカルマの好きな人が居るらしい。

「誰だろ……クラスのマドンナ、神崎さん! とか?」

「違うよ」

適当に言ってみたが違ったみたいだ。
その後も何人かの名前を挙げてみたが、全部外れ。

「うーん……その人と仲良い?」

「仲良いよ」

「そうなんだ……」

カルマが特定の女の子と仲良くしている姿は見たことがない。
私以外で誰かといる時は基本渚君と一緒にいるし……。

「はっ……! まさか、渚君……!?」

私がそう言うと、カルマに冷たい視線を向けられた。

「ごめんなさい冗談です……」

一体カルマが好きな女の子というのは誰なのだろうか。
カルマの事はよく知っているつもりでいたのに、仲の良い女の子というのは検討がつかない。
もしかしたら、私の知らない所でその子と仲良くしているのかもしれない。
そう考えたらなんだか少し寂しい気持ちになった。

「まだ分かんない?」

「全然分かんない……」

「じゃあ、教えてあげようか」

そう言うとカルマは歩みを止めて立ち止まった。つられて私も足を止め、カルマの方を見る。

いつになく真剣な眼差しを向けられ、思わず息を飲んだ。

「鈍感だから全然気づいてくれないんだよね。ずっと好きなのに」

「……そう、なんだ?」

ずっと好き、という言葉に私の鼓動がとくん脈打つ。

カルマは私の方に一歩踏み出して身を屈めると、こつん、と私の額に自分の額をくっつけた。

「こんな近くにいるのに」

「……っ!」

カルマの端正な顔が間近にあって、思わず呼吸をするのも忘れる。

心臓の鼓動がドクドクとうるさい。

「いい加減、気づいてよ」

カルマは私の頬に手を添えると、そっと顔を近づけてキスを落とした。

一瞬時が止まったように感じて、何がなんだか分からなくて、顔を真っ赤に染めて唖然としている私を見て、カルマは可笑しそうに笑う。

「好きだよ、紗良」

その一言が、私の心に強く焼きつくのを感じた。

ファーストキスも、私の心も、全部カルマに奪われてしまったようだ。



幼馴染から恋人に変わった日 end

150524



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -