贈る言葉、贈る想い


※少し切ないお話。


私には好きな人がいる。
1つ年上の、赤羽業先輩だ。

それはまだ私が中学に入学して間もない頃の事。
学校からの帰り道、運悪くガラの悪い高校生に絡まれそうになったところを助けてくれたのが、赤羽先輩だった。
その日から、私はずっと先輩に恋をしている。

学年が違う上に赤羽先輩はE組に行ってしまったので、すれ違う事さえほとんどなかったけれど、全校集会の時とか体育祭や文化祭といった行事の時には、いつも先輩の姿を目で追っていた。
声をかける勇気なんてなくて、ただ遠くから見つめていることしか出来なかったけれど、日に日に先輩に対する想いは募っていった。

そして今日は、3年生の卒業の日。
赤羽先輩も今日でこの学校を卒業してしまう。
きっと今日が、想いを伝える最後のチャンスだ。

「赤羽先輩!!」

卒業式が終わり、体育館から出てきた先輩に私は思い切って声をかけた。
先輩はこちらを振り向いてきょとんとした表情をしている。
それもそうだ。今まで全く関わりのなかった後輩からいきなり名前を呼ばれたら、そういう反応になるだろう。

「あの……私、2年の一瀬紗良っていいます。先輩に、どうしても伝えたいことがあって……。少しだけでいいので、お時間をもらえませんか?」

緊張して少し震える声でそう言うと、赤羽先輩は良いよ、と心よく応じてくれた。

「ここ人多いし、向こう行こっか」

人混みから離れるように、2人並んで歩きだす。
憧れの赤羽先輩が自分の隣にいると思うと、心臓がドキドキして仕方がなかった。
先輩は緊張している私に他愛もない話をふってくれる。

「卒業式って、校長の話とか長くてほんとヤになるよね」

「……先輩、集会とかはよくサボってましたもんね」

「あれ、バレてた? よく知ってんねー」

「知ってますよ。だって……」

ずっと貴方のことを、目で追っていたから。
その言葉は口に出さずに飲み込んだ。

体育館裏までくれば、もう周りに人は誰もいなかった。
私は立ち止まり、赤羽先輩の方に向き直る。

「あの……私、前に一度、先輩に助けてもらったことがあるんです。もう1年以上前のことなので、先輩は覚えてないかもしれませんが……」

「……あーごめん。全然覚えてないや」

赤羽先輩は、少し申し訳無さそうにそう言った。

「いいんです。あの時は本当に、ありがとうございました。きちんとお礼を言えてなかったので、ちゃんと言いたいと思ってました。それから、もう一つ、ずっと言いたかった事があります」

私は赤羽先輩の目を真っ直ぐに見つめる。

「私、赤羽先輩の事が……好きです」

ずっと言いたかった『好き』という言葉。

「助けてもらった日から、ずっとずっと、先輩のことが好きでした。それだけを、最後にどうしても伝えたかったんです」

あの日からずっと心の中に秘めていた想い。
それをやっと今日、伝えることが出来た。

「……気持ちは嬉しいよ、けど、」

叶わない恋だということは分かっていた。
それでも、自分の気持ちを知ってほしいと思った。
だって、涙が出るほど、どうしようもなく好きだったから。

「……分かってます。聞いもらえただけで嬉しいです。ありがとうございました」

私は涙をこらえて、頭を下げた。

「……じゃあ、お礼だけ言わせて。俺のことを好きになってくれてありがとう」

その一言をもらえただけで十分だった。

「私、先輩のことを好きになれて良かったです。もう会えないかもしれないけど、私ずっと、先輩の事応援してます。この先、先輩が幸せでいられるようにって願ってます」

私は最後にとびきりの笑顔を作って、こう言った。

「赤羽先輩、卒業おめでとうございます! お元気で、さようなら!」

私の片思いは、こうして幕を閉じた。
きっと一生忘れることのない、小さな恋の思い出。



贈る言葉、贈る想い end

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