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そして、誕生日当日――。
今日はかねてからの約束通り、カルマの家で2人でお祝いしようということで、紗良はケーキを持ってカルマの家にやってきた。
ピンポーン、とチャイムを鳴らすと、玄関の扉が開いてカルマが出てくる。
紗良はカルマの姿を見ると、嬉しそうにふわりと微笑んだ。
「カルマ君! 来たよー」
紗良の姿を見て、カルマも自然と表情を緩める。
「いらっしゃい。どーぞ、上がって」
「おじゃまします」
階段をのぼり、いつものようにカルマの部屋へと向かう。
紗良は持ってきていたケーキを取り出し、テーブルの上に置いた。
「このケーキね、私が作ったんだよ」
「え、これ紗良の手作り? すごいじゃん」
カルマは目の前に出された豪華なホールケーキをまじまじと見つめる。
生クリームとたくさんの苺で彩られたケーキは、市販されているものと何ら遜色のない出来だ。
「紗良ってほんと料理上手だよね」
「えへへ、頑張っちゃった」
「サンキュー。すげー嬉しいよ」
そう言ってカルマは紗良の頭を優しく撫でる。
紗良は少しくすぐったそうにしながら笑みを返した。
「良かった、喜んでもらえて。……あ、そういえば」
「ん?」
「前に言ってた、カルマ君の欲しいものって何?」
先日、誕生日に何か欲しいものはないかとカルマに聞いた時、当日に言うと言われたことを思い出す。
「あーそれね……何だと思う?」
カルマはニヤリと笑みを浮かべる。
「な、なんだろう……。私が、すぐあげられるもの?」
「うん」
カルマはそっと紗良の顎に手を添えて、くいっと持ち上げるとこう言った。
「……紗良からの、キスが欲しい」
「え……」
一拍置いて、紗良は顔を赤く染める。
「キ、キス!? 私からっ!?」
予想外の要求に動揺する紗良をカルマは楽しそうに眺める。
「うん。いつも俺からするばっかりで、紗良からしてくれた事一度もないよね?」
「そ、それはっ……」
「紗良は、俺とキスしたくないの?」
「そういう訳じゃ……」
「じゃあいいよね。誕生日プレゼント、くれるんでしょ?」
「う……」
自分からキスをするのは恥ずかしいが、そう言われると断れない。
「わ、わかった……。じゃあ、目閉じてください」
「えー。開けといちゃダメ?」
「だ、ダメっ」
カルマに見つめられながらだと恥ずかしすぎて出来そうになかった。
「しょーがないなー。紗良の顔見たかったのに」
カルマがしぶしぶ目を閉じるのを確認して、紗良はゆっくりとカルマに顔を近づける。
自分からキスするというのはやはり緊張するもので、ドキドキと心臓が脈打つのを感じる。
「……」
「……」
「…………」
「…………。ねぇ、まだ?」
いつまで待ってもキスをしてこない紗良に、カルマがしびれを切らして聞いてきた。
「も、もうすぐだから……!」
「はいはい」
紗良はひとつ深呼吸をすると、呟くようにこう告げた。
「カルマ君、お誕生日おめでとう。大好きだよ」
カルマの両肩に手を添えて、体を近づけ唇に触れるだけのキスをした。
今の紗良にはそれで精一杯だった。
「……そのセリフは、ずるいって」
カルマは、思いがけず大好きと言われたことに不意打ちをくらったような気分だった。
紗良恥ずかしそうに顔を赤くして「これで満足?」と上目遣いで聞いてくる。
そんな紗良を見ると、カルマはしだいにイタズラ心が湧いてきた。
「……俺も、紗良の事大好きだよ。だから、お返し」
「……んっ!?」
急にカルマから深く口づけされ、紗良は苦しそうに声を漏らす。
カルマはお構いなしに、紗良の頭の後ろに手を回し、何度も角度を変えてキスを続ける。
しだいに力の抜けてきた紗良の体をカルマはゆっくりと押し倒した。
「……っ! カルマ君!?」
「いいから、ちょっとじっとしてて」
カルマの手が耳の後ろから首筋へと滑るようになぞる。
そしてカルマの唇が首元に触れて、ぞくりという感覚に紗良は身体を震わせた。
「ちょ、ちょっとまって……! って、あれ?」
ふと、紗良は首元に何か違和感を感じて見てみると、綺麗なネックレスが自分の首にかけられていることに気づいた。
「これって……」
相変わらず押し倒されたままの状態で、ネックレスと目の前のカルマを交互に見やる。
「俺からの、クリスマスプレゼント」
ネックレスの先には小さな赤色の宝石がついていて、光を反射してキラキラと輝いていた。
「わあ、きれい……! いいの? こんなもの貰って」
「うん。紗良の為に選んだからね」
「ありがとう、すごく、嬉しい……! 大事にするね」
紗良は心底嬉しそうに笑ってそう言った。
カルマも満足そうに微笑んで、紗良の額にキスを一つ落とすと、ようやく体を起こした。
腕を引っ張って紗良の体も起こす。
「じゃあプレゼント交換も済んだことだし、ケーキ食おっか」
「あ、うん! じゃあケーキ切り分けるね」
紗良は上機嫌にケーキを切り分け始める。
「……本当はケーキより紗良の方を食べたいけど」
カルマのその呟きは、楽しそうにケーキを切る紗良の耳には届いていないようだった。
誕生日の時間 end
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