適当にそこにあったピンクのワンピースを着て、
キッチンに向かう。
食卓は何やら物で埋れていてほとんど見えなくなっていた。
この星では誕生日を随分盛大に祝うんだなと思いながらハリーのそばに駆け寄った。
ハリーはベーコンを裏返しているのを横で見ていると、
男がキッチンに入って来て、
「髪をとかせ!」
そう怒鳴った。
そして私を見て、少しだけ驚いた。
なんだ? 私は今まで髪をとかさないような子供だったのか。
あまりにも滑稽で、思わずぷっと噴き出してしまった。
「何笑ってるんだよ……あ、さっきのがバーノンおじさんだよ。
ほら、アイスも手伝って!」
「は? ふふ……冗談キツイね。
どうして私がこんなことをしなければならないのですか……」
「もうっ!」
ハリーは怒ったようにそっぽを向き、今度は卵を焼き始めた。
すると女性がふくよかな体型の少年を連れてキッチンに入ってきた。
「女性のほうがペチュニアおばさんで、子供のほうがダドリーで合ってますか?」
「うん、合ってるよ」
ハリーは尋常じゃない量のプレゼントのせいでかなり狭い食卓にベーコンと卵の皿を並べていた。
結構苦戦しているようだから、プレゼントをこっそりバレないように押したりして手伝った。
「三十六だ。去年より二つ少ないや」
「坊や、マージおばさんの分を数えなかったでしょう。
パパとママからの大きな包みの下にありますよ」
「わかったよ。でも三十七だ」
ダドリーの顔に血がのぼってきた。
「わがままなガキですね」
「しっ!」
ハリーは慌ててベーコンに食らいついた。
ペチュニアおばさんも慌てて言った。
「今日お出かけした時、あと二つ買ってあげましょう。
どう? かわいこちゃん。あと二個もよ。
それでいい?」
ダドリーは少し考え込んでから言った。
「そうすると、ぼく、三十……三十……」
「三十九よ、かわいい坊や」
「そうか、そんならいいや」
ダドリーはドッカと座り込み、一番手近にある包みを鷲掴みにした。
「なんだ、地球人のガキはこんな簡単な計算もできないのですか。
ふん……下等生物が」
「ちょっとアイス………!」
バーノンは私たちの会話に気づかず、
呑気にクスクス笑った。
「やんちゃ君はパパと同じで、絶対損したくないってわけだ。
なんてすごい子だ! ダドリーや」
そう言ってダドリーの髪をクシャクシャッと撫でた。
すごい子?
先程からこのガキは特別な扱いを受けているようだがなぜだ?
……ああ、戦闘力がずば抜けているのか!
私は無言でスカウターをポケットから取り出し、
ダドリーにセットした。
戦闘力……
2。
な、なぜだ…………戦闘力2だと…………?
この雑魚がなぜこんなに丁重に扱われているんだ……!!!!
ペチュニアやバーノンも戦闘力2。
スカウターをそっとポケットにしまう。
この家………いや、この星で一番強いのは私だな。
電話が鳴り、ペチュニアがキッチンを出た。
バーノンとハリーはダドリーが包みをほどくのを眺めていた。
「プレゼントの量はすごいですが……中身は大したことありませんね」
ぼそっと呟き、家を探索しようとすると、ペチュニアが戻ってきた。
まるで怒ったような顔。
「バーノン、大変だわ。
フィッグおばさんが脚を折っちゃって、この子達を預れないって」
ペチュニアはバーノンにそう言い、
ハリーと私を顎でしゃくった。
な、なんて失礼な態度だ……!
ダドリーはショックを受けたように口ををあんぐりと開けていて、ハリーは逆に嬉しそうだった。
「どうします?」
ペチュニアはハリーと私をきつく睨んだ。
挑戦状かと受け取った私はさらにきつく睨み返した。
「マージに電話したらどうかね」
「バカなこと言わないで。
マージはこの子たちを嫌ってるのよ」
なに? 嫌っているだと。この私を?
よくも本人の前で、この私の前でそんなことが言えるな。
一度懲らしめてやったほうがいいかもしれない。
「それなら、ほれ、なんていう名前だったか、
おまえの友達の────イボンヌ、どうかね」
「バケーションでマジョルカ島よ」
そのとき、ペチュニアとバーノンの会話にハリーが割り込んだ。
「僕らをここに置いていったら」
「ぼ、僕ら!? ま……まさかあなた、この私を巻き込むつもりですか!?」
ハリーは私の言葉を無視し、相変わらずペチュニアとバーノンを見つめている。
……ふん、別にいいさ。
こんな下等生物どもに無視されたって痛くも痒くもない!!
ペチュニアはレモンを丸ごと飲み込んだような顔をした。
「それで、帰ってきたら家がバラバラになってるってわけ?」
「僕、家を爆破したりしないよ」
なんだと? 戦闘力2のハリーにそんなことが……!?
だが全員がハリーの言葉を無視して続けた。
「動物園まで連れて行ったらどうかしたら……それで、車の中に残しておいたら……」
「しかし新車だ。ハリーとアイスを二人だけで中にのこしておくわけにはいかん……」
「そうですよ。この私がこんな薄汚いガキと同じ空間に二人きり? 反吐が出ますね!」
「え、酷い」
突然ダドリーがワンワン泣き出した。
だが私は騙されない。嘘泣きなんだろう?
「ダッドちゃん、ダドリーちゃん、泣かないで。ママがついているわ。
おまえの特別な日を、あいつらなんかに台無しにさせたりしやしないから!」
ペチュニアはそう言ってダドリーを抱きしめた。
「ぼく……いやだ……あいつらが……く、く、くるなんて!」
下手な演技だ。
「いつだって、あいつらが、めちゃめちゃにするんだ!」
この私をあいつ呼ばわりとは、なかなか勇気がある。
ペチュニアの腕の隙間から私とハリーに向かってニヤリと意地悪く笑ったダドリーにニタァと笑い返してやると、
ダドリーはヒッと小さく悲鳴を上げて顔を隠した。
ふん、ガキが!
そのとき玄関のベルが鳴った。
「ああ、なんてことでしょう。みんなが来てしまったわ!」
ペチュニアは大慌てだった。