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宇宙船に戻って、椅子に座り腕組みをした。
「うーん、どうしようかなあ」
仲間が居ないよりは居るほうが心強いと思ってここに来たけど、それは勘違い。
ただのあだ名だったとはね。
あのカービィとかいうのも、メタナイトとかいうのも、
とても強そうには見えなかった。
はたしてこの見るからに平和そうな星で何か成長できることがあるのだろうか……。
大体、魔王様が調べもせずに噂だけでこの星に悪魔がいるとか言ったからこうなったんだ!
悪いのは魔王様だ。私は無実だ。
よし、今すぐにでも帰って文句言ってやろう。
決まりだね。
私は離陸しようと操縦席に向かった。
そして、ふとバッテリーを見た。
「あ……あああああああっ!!!!!」
思わず今まで一番大きかったんじゃないかと思うほどの声量で叫んでしまった。
それもそのはず、バッテリーが残り3パーセントしかない。
離陸だけで2パーセントは使うし、ポップスターからデビル星まで行くのには少なくとも30パーセント必要だ。
つまり私は、
「もう帰れない……?」
宇宙船に積んでいたはずの予備のバッテリーがなぜか無くなっているし、本当についてない。
私はこんな何もなさそうな田舎で一生を終えるのか……。
思えばつまらない人生だった。
年下には馬鹿にされ、師には毎日怒鳴られて……
ん?
そう考えると、ここにいるほうが案外楽しいかもしれない!
これからは勉強も修行もしないでのんびり暮らしてやろう。
何度も言うが、こうなったのは魔王様の責任であって私は悪くない。
もう寝ようとベッドに向かうと、扉を叩く音が室内に響いた。
「こんな時間に誰だろう……」
渋々と扉に体を引きずるように歩いていって、
よそ者の手前、愛想良くしていないと後々困ることがあるかもしれないから、
できるだけにこやかに柔らかい表情を作り、
扉に手をかけた。
「はい、誰かな?」
扉を開けると、二股になっている帽子と蝶ネクタイという道化のような格好をして玉乗りをしている者と目が合った。
「あっカワイイ……」
道化師は私をしばらく見つめた後、小さくそう呟いてからハッとしたように目を大きく見開いて、あたふたと慌てふためいて玉から落ちた。
「おやおや? 私の魅力に当てられた者がまた」
「ち、違うのサ! 今のはっ! ああもう! 忘れるのサッ!」
私の言葉を遮って一気にまくし立てられて呆気にとられていると、道化師は思い出したように真剣な面持ちで私をじっと見つめた。
「ん? また見とれてるのか?」
「だから、ちがーう!! さっきのことはさっさと忘れるのサ!!
ボクはここから邪悪な禍々しいオーラが漏れてたから来てみたのサ! キミが噂の悪魔か!?」
「えっ?」
邪悪な禍々しいオーラ……!?
そんなこと今まで一度だって言われたことがないし、むしろ優しすぎるくらいだと思っていたのに。
なんだかとても嬉しい。悪魔だと認められた気がする。
思わず頬が緩み、自然ににこやかな笑みからニタニタ笑いに変わっていくのが自分でもわかる。
「な、なんだよニヤニヤして! またボクをからかう気か!?」
「ははは、心外だなあ。私は今まで一度だって君をからかったことなんてないよ!」
「嘘つけ……って、そんなことはどうでもいいのサ!
悪魔なのかって聞いてるのサ!」
照れ屋な道化師の可愛い疑問に私は優しく答えた。
「そうさ、私は悪魔だ! それもそこらの悪魔とは違って、魔王の娘なんだ! もちろん血統は最高ランク!
よーし道化師、私のことはこれからアミー様と呼べ!」
「誰が呼ぶか!! というかボクは道化師じゃなくてマルクなのサ! キミこそボクのことはマルク様と呼ぶのサ!!」
元気な道化師……もといマルクはそう叫んで息を切らせていた。
「そんな大声出して……一体何時だと思ってるんだい? 近所迷惑もいいとこだよ」
「キミが言えることか!? さっきすごい大声で叫んでただろ!」
さっき?
……あっ!!
「そうだ、宇宙船のバッテリーが無くなったんだよ!」
「えっ? あっ、そ、そうか」
ずいっと顔を近づけて言うとマルクは少々引き気味に返事をした。
というか声、漏れてたんだね。
防音にした方がいいかもな。
今日は色々ありすぎて眠くなってきたので、私はマルクににっこりと笑いかけて言った。
「もう遅いから帰って。私もう寝るから」
「すごくストレートに物を言うやつなのサ……」
「今日はもう疲れたんだ。まだ用があるならまた明日来てね」
「ええ……? わ、わかったのサ」
私は半ば強引にマルクを帰らせ、扉を閉めて大きく頷いた。
よし、これでやっと寝られる。
私は今度こそベッドに横になり、眠りについた。
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