霧中
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「‥‥寝てしまわれましたか」


ベッドに横たわった途端にすぅすぅと一定の間隔になった呼吸に、彼女が寝たことを察する

まさか、本当にこの状況で寝てしまうとは。





【異世界からやって来た少女】として目の前に現れた少女


森の中で瀕死の重傷で倒れていた同じ年頃の彼女をリナさんは見殺しに出来ないと治療をして近くの村まで運んだのがきっかけ。



村で彼女の知り合いがいないかとリナさん一行が聞きまわっている頃、彼女は眼を覚ました

ゆるやかに流れる柔らかそうな琥珀色の髪を乱し、がばっと勢いよく上半身を起こした彼女は肩で息を荒くしていた

ぱちぱちと透き通る様な碧玉の瞳を瞬かせ、冷や汗を流す。



寝起きの頭で必死に何かを考え、どうやら僕を認識できていない様子に不思議と面白みを感じた


「あのぉ‥‥」

取り敢えず控えめに声を掛けてみる

「!?」

予想以上に驚いた様子の彼女は、目をすがめ僕の事を凝視する



「大丈夫ですか?」

「え、あ‥‥はい。」

「何か僕の顔についてます?」

「あ‥‥いえ、失礼しました」


凝視していたことを悪いと感じたのか暫し逡巡するように視線を迷わせると再びこちらに視線を合わせた


「あの、ここは何処ですか?」

意識を失っているときに運ばれたのだからもっともな質問

「セイルーン西方のとある村です」


そう答えると納得する様子はなくどうやら戸惑ったような反応を見せた

思っていたところと違うらしい



「何故あんな所で倒れていたんですか?」

「あんな所って‥‥」

どうやら倒れていたところも記憶にないらしい


「森の中です。山賊にでも襲われましたか?」

「いえ‥‥山賊なんて今時物騒な。あれ、そういえば怪我‥‥治ってる」



心底、どうして怪我が治っているのかわからないという様子の彼女に疑問を感じた
人間、人里離れた村の出身だからとこうまで世間知らずなものでしょうか





バンッ


「どうやら目を覚ましたみたいね」


ここでリナさんが部屋へ入ってきたことで新たな違いを見つける

どうやら僕にだけ見知らぬ者に対するだけの警戒とは別の警戒までしていたのがわかった。


更にリナさんと質問を重ねていくと、ただの世間知らずではないらしい

この少女がリナさん一行と行動を共にするのは僕にとっても都合がよかった



異世界から来たと言い、魔族の僕にだけ違った反応を見せる少女。

それだけで注意して監視する対象になるには十分でした








その後、彼女の見せた力は予想を超えるものばかり


人間としてはあり得ない魔力容量(キャパシティ)を持ち。

常人では到底敵わない記憶力。呑み込みの速さ。
アメリアさんたちは記憶力がいい、程度にしか思っていませんがその記憶の精度は人間の域を逸している



普通の人間ではないことを示す彼女の能力に、彼女自身が気付いていない危うさ


早々に滅するべきか、利用するべきか




きっと滅するのは今ならば容易い。一瞬で塵と仮せる

だが、普段の彼女の様子を見ているとただこの世界に馴染みたいだけだと伝わってくる


常に危険に晒されやすい体質だと彼女が話した様に、少しの隙で命を落しかねない危機が何度も彼女を襲った瞬間を何度も目の当たりにしてきた


滅びを願う種族の僕が生を願うものの手助けをするなんて





やはり‥‥。


いやいや、今手を出せばリナさん達に完璧に敵視されてしまう
きっとリナさんはこの少女を守ろうとするでしょうし

それは今はまだまずいですかね



安らかに眠る姿を見つめて、その選択はまだ早いと部屋を後にした





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