夏休み前の、あの日眩しい太陽に目を細めながら、あいつの背中を見た。 いつも必死で面倒くさいあいつ、でもその日は、なんだか寂しげに見えて 叫ぶ蝉達の声が、あいつの叫びのような気もして。私まで、切なくなる。
夏休み、あいつの背中を思い出す。部屋には扇風機の回る音と、蝉の叫ぶ声が聞こえている。汗をかいたグラスに入ったサイダーの氷がカランと小さく鳴った。
その音に急かされるように、サイダーを飲み干して 日除けの帽子を被り自転車を漕ぐ。
ああ、あたしって今必死で面倒くさい奴かもしれない。 でもあの日みたあいつの背中の切なさの原因を、知りたいと必死なのは確かだ
「あつ…」
帽子の中にじんわりと汗をかいて首を伝う。 少しだけ手で汗をはらってまた自転車のタイヤを回転させる
あいつの家につくと、あいつは家の扉の前に突っ立っていた 急いで、ブレーキを握る。キーッ!と嫌な音がして あいつが、こちらを見た。
ブレーキが壊れてたの忘れてた。恥ずかしいなあ…もう
「…どうしたの?」 あいつが、人懐っこい笑みを見せて話しかける 「ちょっとお出かけ」 「…暑いのに、すごいね」
そう言うと、またあいつは視線を扉に向けた
「…あんたは、お出かけしないの?」 「ん?あはは、するよ」 「…いつまで…?」
小さな声になってしまった。でも、聞いていいのかどうかわかんなくなったんだもの。
「…誰も知らないよ」 「そう。…じゃあね」
蝉の叫ぶ声と一緒に聞こえた、静かな言葉は あたしの静かな空間に、ぷかりと浮かんだ。
「誰も知らないんだって…」
呟いたら、ぽろりと涙が出て よくわからないのに、泣きじゃくった
今日の汗は、心に染みた。
夏休み
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