01 誠凛高校バスケットボール部。去年創設されたばかりの新設校のチームであるにも関わらず、昨年のインターハイで1年生だけで予選決勝リーグまで駒を進めている。創部1年目の成績としてはかなりの脅威である。 そして話は変わって部活2日目。天気は雨。 「ロード削った分時間あるね、リコちゃん」 「カントク、でしょうが」 「はいはい。どうしますか、カントク?」 「……ちょうどいいかもね」 1年生の実力も見たかったし、とリコは小さく呟き、体育館に声を張った。 「5対5のミニゲームやろう! 1年対2年で」 リコの提案で1年と2年が整列する。 「千秋君は記録ヨロシクね」 「はーい」 千秋はリコからスコアブックを受け取り、コートを見る。1年側の選手には黒子と火神も加わっていて、面白くなりそうだ、と笑みを浮かべた。 「覚えてるか。入部説明の時言ってた去年の成績…」 「ああ…1年だけで決勝リーグまで行ったって…」 「マジかよ。それフツーじゃねぇぞ…!」 「ビビるとこじゃねー。相手は弱いより強い方が良いに決まってんだろ! 行くぞ!」 若干腰引け気味の1年に喝を入れたのは火神だ。その声に背中を押されたか少し力の抜けた1年と2年がポジションにつく。 試合開始のホイッスルが鳴り…、ボールを奪ったのは火神だ。 そのまま1人で攻め上げて、ゴールに派手なダンクをかました。 うーわー、初っ端からダンクかよ、千秋はそれに苦笑いするが、試合はそのまま火神ペースで進んでいく。 「千秋君、どう?」 「どうって、聞かれましてもねー。まだまだ荒削りですけど、アイツ磨いたら相当もんになりますよ。センスや潜在能力だけならキセキとタメ張るかも。まあでもそれだけです。所詮磨かなければただの石。 口では手厳しいことを言っている割に、千秋は興味深気に火神のプレイに魅入っている。 しかし、このまま黙ってやられているような2年組ではない。火神がボールを持っている時は3人。ボールを持っていなくても2人をマークにつけて火神を完全に押さえ込み、徐々に1年チームとの点差を広げていく。1年チームは多少の諦めムードが漂っている。 「やっぱり強い…」 「っていうか勝てるわけなかったし…」 「もういいよ…」 そのセリフに火神は声を荒げて男子の胸倉を掴む。 「もういいって…なんだそれ、オイ!!」 「っ…!」 「落ち着いて下さい」 そんな火神に後ろから膝かっくんをしたのは黒子である。ピシリ、と血管を浮き上がらせて黒子に掴みかかろうとする火神を1年で必死に止めているのを見て千秋は苦笑いを洩らす。 何とか火神を宥めて試合再開だ。 1年生が投げたパスが、突如軌道を変えゴール近くに居た選手にパスが通ったのだ。受け取った側も驚きながら、ジャンプシュートを決める、と、選手たちから戸惑いのざわめき。 「入っ…? ってえぇ!? 今のパスどう通ったんだ!?」 「わかんねぇ、見逃した!」 その後も1年チームは何時の間にかパスがスムーズに通るようになり、得点を重ねていく。勿論、これは偶然などではなく___、黒子のプレイである。 「これ、は…」 「カントク、ミスディレクションって、知ってる?」 「え、確か手品で使う手法よね」 「そう。黒子は、本来の影の薄さとミスディレクションを利用して、パスの中継役となってるんだ」 ミスディレクション。手品などでよく使われる人の視線や意識をコントロールする手法である。彼はそれを利用して、相手の視線や意識をボールや別の選手に逸らし、自らの影を更に薄めてパスを中継しているのだ。 「元帝光中のレギュラーでパス回しに特化した見えない選手…、噂は聞いてたけど実在していたなんて…」 「コレがアイツのスタイル。ね、面白いだろ?」 千秋はリコに問いかけながらもコートから目線を離さず試合の行方を見守った。 そして prev next |