13 バスケ部で二号を飼いたいという黒子の主張で、火神を説得できるなら、という条件でそれを認めることにしたバスケ部。 それにしても人間の恐怖心が一日二日で和らぐかねぇ、と肩に乗ってきた二号をおちょくりながら思う。 練習中でも二号の方を見る度にびくっと体を揺らして目を逸らしている現状である。これには苦笑いしかない。 「……にしても千秋君懐かれてるわねー」 「たまに構ってるだけだけど」 「癒しオーラでも出てんじゃないの。あのほら…マイナスイオンとか」 「何それ」 リコの冗談口に笑うとリコも「さあ?」と笑みを浮かべながら言った。 身近に小動物がいるという感覚は想像以上に人間を和ませるらしい。火神以外の部員は揃って普段より少し明るい雰囲気で練習に臨んでいる。 「かけ声ができるっていうのはポイント高いわよね」 「まあ黒子の説得にかかってるけど、いても問題はない……むしろちょっとプラスか」 「でも練習に支障が出るようじゃ本末転倒だからねー…」 やはりこちらに顔を向けて体を揺らす火神にリコはがくりと肩を落とす。千秋はそんなリコに苦笑いで「ごもっとも」と返して練習に目を向けた。 *** 黒子の説得の甲斐あって、どうにかこうにか火神と二号が打ち解けた練習の後。 ドリンクのボトルを流していると不意に携帯が鳴り出した。誰だろうかと怪訝に思いつつ表示を確認すれば、映されていたのは『黄瀬』の文字。 大抵どうでも良さげな雑談はメールで送ってくるので、何かあったのかと思いながら応答ボタンをタップする。 「はい、」 『あ、千秋っち?』 「おー。なに?」 『今大丈夫っスか?』 大丈夫じゃなかったら取らないんだけど、茶化す言葉が思いついたものの、声色が意外と真剣だったので飲み下す。洗い終わったボトルの水を切りながら「大丈夫だけど」と返す。 『千秋っち今度の休みっていつっスか?』 「休み? あー…いつだっけ……」 頭の中でカレンダーを思い浮かべる。 「確か金曜」 『あ、俺もその日オフっス。……ちょっと会って話したいことがあるんスけど』 モデルもあるだろうに本当にオフなのか、と一瞬懸念がよぎったが部活はサボらないだろうし、と判断して「いいけど」と返す。モデルの仕事は千秋が気にすることではない。 黄瀬はちゃっちゃと時間と場所を指定すると『じゃあまた』と電話を切った。 「……何だったんだ一体…」 「何がですか?」 横から聞かれてそちらを振り向く。他の奴だったらまたどやされてたぞ、と苦笑しながら黒子に「電話」と携帯を軽く振る。 「黒子は? なんか用事?」 「カントクが呼んでました」 「リコちゃん? …何だろ……」 さあ、と言うように黒子は首を傾げる。 データの引き渡しとかかな、と推測して洗っていたボトルを持ち上げる。 「ありがと」 *** 水に触れていたせいか、少しだけ温度の低い手に一瞬だけかき混ぜられた髪をおさえる。 頬が緩みそうになってから、そういえば自分は髪を撫でられるのが嫌いだった筈だ、と思い返して無表情に戻す。 体育館に戻っていく千秋の後ろ姿をちらと見て、聞こえないように声を潜めて呟いた。 「いつもずるいんですよ君は」 ふー、とため息を吐くと気を取り直して黒子も体育館に戻るために振り返った。 →後書き prev next |