01

「おい柊! 俺と1on1しろよ!」

試合の後、後片付けをしている千秋のもとに、火神がやってきてそう言い放った。千秋は片付けの手を休めて火神を振り返る。いつか言われるだろうなとは思っていた。恐らく同級生や先輩たちからキセキの世代のことを聞いて、ついでに自分のことも話してもらったのだろう。“アイツ”によく似ているこいつのことだ。言われても不思議ではない、が…、

「ここまで予想通りだと、何だかなぁ…」
「? 何だよ」

眉を顰める火神に首を振って苦笑する。

「なぁ、良いからやれよ」
「ちょっと火神君、千秋君は怪我をしてるんですよ」
「あーいいよ黒子。別に1on1出来ない程じゃない」
「だったら、」
「だが断る」
「何のギャグですか千秋君」
「ひどいな黒子。俺は大真面目だよ」
「……何でだよ」

ギッ、と千秋を睨みつける火神。だがそんな火神に全く臆さず、その視線をまっすぐ受け止めて千秋は答えた。

「単純な理由だよ。お前じゃ相手にならないからだ」
「…はぁ? ふざけんなよ。テメェいつからバスケやってねぇんだ」
「そうだな…、大体1年ちょい、かな。まあ全くしてないってわけでもないが」
「1年以上ブランクある奴じゃ俺じゃなくてお前が相手にならない、の間違いだろ」

挑発するつもりで火神がハッと鼻で笑うと、千秋はきょとん、と火神を見上げる。

「お前、何も知らないんだな」
「は?」
「勝負挑んでくるなら結果残してから来いよ」
「結果だぁ?」
「キセキと、そうだな…、せめて対等に勝負出来るようになってから、ってとこが妥協ラインか」
「いや、何でだよ!」
「だって今のお前じゃ瞬殺されて自信喪失するだけだよ。辞めとけ辞めとけ。せっかく戦力になりそうな奴の士気を好んで下げるほど俺は性悪じゃない」

それに俺多分今でもキセキより強いし。平然とそう言ってのける千秋に火神はぽかんとしている。

「…自慢ってわけじゃないけどな?」
「それ良いじゃん。だったら尚更やろうぜ」
「オイ、人の話聞いてる?」
「お前はキセキの世代より強ぇんだろ? だったら尚更やりてーじゃん」

目を輝かせてそう言う火神に、千秋は心底呆れ返り、ため息を吐いた。

「いやー、もうお前そっくりだわ」
「誰と?」
「俺の友達。あー、ったく、しゃーねーな。3本勝負な」
「っしゃ!」
「黒子、ボール」
「あ、はい。……千秋君、無理しないで下さいよ?」
「こいつが俺に無理させられるかどうかがまず問題だよなそれ」


▽▼▽▼


「すっげぇ、あの火神を一瞬で…?」
「しかもアレでブランクありとか…」
「“先代”半端ねぇ…!」
「なぁ、その先代ってやめてくんない?」

汗ひとつかかずに冷静に突っ込む千秋と息を切らして座り込んでいる火神はまるで対称である。
しかし火神は妙に放心しきった顔で千秋を見つめている。その視線に気づいて千秋が声をかけた。

「おい、大丈夫か? な、やんない方が良かっただろ?」
「すっ…げぇ…!」

消沈しているにしては目が輝いている気がする。千秋は嫌な予感がする、と眉を顰めて2、3歩後ろに下がった。

「なぁ、千秋って呼んでいいか!?」
「なぁ、千秋って呼んでいいか!?」

青髮のバスケバカと目の前の火神が被って見えて、千秋は面倒だな、とため息を吐いた。

「勝手にしろよ」




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