*
『鬼灯様、よかったらこれ、どうぞ。』
その夜、琴音は鬼灯に今日白澤からもらった薬を差し出した。
「これは?」
『疲れのとれる薬です。』
「薬…?もしかして…あの白豚のところへ行ったんですか!?」
詰め寄る鬼灯に琴音は軽く両手をあげる。
『え、えっと、はい…。』
「前にも言いましたよね?あいつのところへは1人で行くなと。」
『ひ、1人じゃないです!子供たちと一緒に…』
「子供たちまで一緒に行ったのですか!?」
鬼灯は額に手をあてると、はぁ…とため息をつく。
「もう連れていってはいけませんよ。バカがうつります。」
『そんなことないですよ…!白澤様は知識の神ですし。』
「そういう意味じゃないです。」
『それに、桃太郎さんもいらっしゃいましたし。』
「それは関係ないでしょう。とにかくもうダメですよ。」
『そんな風におっしゃらなくたっていいじゃないですか…。白澤様はとても優しくていい方ですよ。』
「それは…あなたはあいつの方がいいということですか?」
『そういう意味じゃ…』
言いかけた琴音の腕を掴むと、鬼灯は彼女を抱き寄せた。
「そういう言い方をされると、あいつの方が好きと言っているように聞こえます…。」
『鬼灯様…』
「あなたは私のものなのに…」
そう言って顔を近づけてくる鬼灯に、琴音はハッとなると、パンッと手を合わせ、白澤の姿に変化した。
「!?」
その瞬間、ピタリと動きを止めた鬼灯の胸を押して彼の腕から逃れると、琴音はくるりと背を向けた。
『な、流そうとなさらないでください。私は、何よりあなたの…鬼灯様のためを思って薬をいただいてきたんです…っ!』
「!!」
『それでも、私が白澤様のことをお好きだとお思いになられるのですか…?』
琴音に悲しげな声音で言われ、鬼灯はフゥ…と息をつくと、口を開いた。
「そうでしたね…あなたは私のためにしてくれたんですよね。すみません。」
『鬼灯様…』
困ったような表情になると、鬼灯は頭をかく。
「いけませんね。あなたのことになると、つい頭に血が上って冷静でいられなくなる…。」
『いえ、私も前から言われてたことなのに、約束をお守りできなくてすみません…。』
「では、今回はおあいこということでいいですか?」
『はい』
にっこりと笑う琴音に鬼灯は顔を引きつらせながらも、無理矢理笑顔を作った。
その表情に琴音が首をかしげると、鬼灯は我慢の限界が来たのか、彼女から目をそらした。
「ということなので、それ、もうやめてもらってもいいですか?」
『え…?』
指をさされ、窓に視線を移すと、琴音はまだ白澤の姿のままであったことに気がついた。
『あ!ご、ごめんなさい!』
慌てて変化を解くと、鬼灯はようやく琴音に視線を戻し、彼女に歩み寄った。
「もうあいつに変化しないでくださいね。あなただと分かっていても、目の前にあいつがいるようですごく複雑な気持ちになります。」
『はい…わかりました。』
苦笑する琴音の頬をそっと撫でると、鬼灯はゆっくりと顔を近づける。
「私の前では私の愛する琴音のままの姿でいてください。」
『はい…』
静かに答えた琴音に満足げな表情を浮かべると、鬼灯は彼女の唇に自身のそれを重ねた。
END
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