*新たな命
数時間後、病室に移った琴音と子供に、鬼灯たちは面会をしに行った。
「入りますよ。」
一声かけて中に入ると、ベッドには琴音が寝ていた。
『あ…鬼灯様』
琴音は鬼灯の姿を見ると、にっこりと微笑んだ。
鬼灯はそんな彼女に近づくと、そっと頬を撫でる。
「よく頑張りましたね。生んでくれて、ありがとうございます。」
『いえ、鬼灯様こそ、ずっと見守ってくださってありがとうございました。』
「琴音」
『母様…!来てくださってたんですね。ありがとうございます。』
「当たり前でしょう。大事な娘の出産なのですから。」
「「「姉さん、お疲れさま!」」」
『みんなも来てくれたのですね。ありがとう。』
そう言って嬉しそうに笑う琴音に鬼灯は声をかける。
「聞きましたよ。先生に。」
『え…?』
「出産のリスクについてです。」
*
数時間前――
「実は、こういうケースは珍しいですから、まだあまり詳しくは分かっていないんですが、 彼女のような、元々鬼ではなかった方は、出産が難産になったり、最悪の場合、命を落とす危険性があると言われているんです。」
「「え…!?」」
驚く鬼灯と縁に医師は続ける。
「それでも彼女は何の迷いもなく生むと決断されていました。とても意思の強い、素敵な奥様ですね。」
*
「なぜ言わなかったんです?」
『ごめんなさい…でも、どうしても生みたかったんです。鬼灯様も楽しみにしていらっしゃいましたし、私自身も本当に楽しみで…。』
「まぁ、その気持は分かりますが…あなたがいなくなっては元もこもないんですよ?」
『はい…ごめんなさい…。』
「ですから、もし何かまた決断しなくてはならないことがあれば、私に相談してくださいね。」
『はい…分かりました。』
「約束ですよ?」
『はい』
そんな2人の様子に縁は僅かに笑みを浮かべた。
(この男は…本当によく琴音を思ってくれているようだな…。)
『あ、鬼灯様、母様、隣に赤ちゃんがいますから、見てあげてください。』
琴音に言われ、隣のベビーベッドに視線を移すと――
「え……2人?」
そこには2人の赤ちゃんが眠っていた。
『はい。双子ですよ。それも男女の。』
「双子…?」
驚きのあまり、少し固まってしまっている鬼灯に、琴音はクスリと笑う。
『黙っていてごめんなさい。でも、びっくりさせたくて。』
「そう…だったんですか。とても驚きました。」
『ふふっ、抱っこしてあげてください。』
琴音に言われ、鬼灯は2人の赤ちゃんの内の1人をそっと抱き上げた。
『そっちの子は、お姉ちゃんです。』
「ということは、女の子ですね。」
『はい。』
腕の中にいる自身の子は柔らかくて、温かい。
初めての感覚に、鬼灯は息を飲んだ。
『どうですか?鬼灯様。』
「とても…愛らしいですね。」
『ふふ、じゃあ今度は男の子も抱っこしてあげてください。』
「じゃあ、女の子は私に抱かせてくれるかい?」
「はい。」
そう言うと、鬼灯は縁に赤ちゃんを渡した。
「かわいいな。琴音に似ている。」
「かあさま、僕にも見せて!」
「私もー!」
「僕も僕も!」
「分かったよ。ほら。」
そう言って兄弟たちが女の子を可愛がっている間に、鬼灯は男の子を抱き上げた。
『男の子の方は、鬼灯様に似ていらっしゃると思いませんか?角とか、眉とか、鼻とか。』
「そうですね。2人がこれからどう成長していくのか楽しみです。」
『そうですね。』
そして、縁と兄弟たちは男の子も可愛がると、そっとベッドに寝かせた。
「それじゃあ、私たちはそろそろ帰るよ。」
『はい。来ていただいて、本当にありがとうございました。』
「私の方こそ、お前とお前の子供の顔が見れてよかったよ。ありがとう。また会いに来る。」
『はい、ぜひ。』
琴音の笑顔に縁も微笑むと、兄弟たちに声をかける。
「ほら、お前たち、挨拶しな。」
「姉さん、バイバイ!」
「またね!」
「こっちにも遊びに来てね!」
『えぇ。また遊びに行きますね。』
じゃあね〜と手を振りながら、兄弟たちは帰っていった。
それを見届けると、鬼灯は琴音の手を握った。
「琴音、改めてお疲れ様でした。」
『はい、ありがとうございます。』
「ですがきっと、これからの方がもっと大変だと思います。ですから、2人で一緒に色んな壁を乗り越え、子供たちを育てていきましょう。」
『はい、鬼灯様。』
ふわりと笑う琴音の頬に手をそえ、鬼灯はそっと顔を近づける。
「愛してます…琴音」
『私もです…鬼灯様』
それから鬼灯は、琴音の唇に自身のそれを重ね合わせた。
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