甘い甘い匂いが部屋を通り抜けて行く。自室から出て階段を降りて行くとジョルノはふと、その匂いに気付いた。大好きなあの、甘い香り。
誘われるように行き着いた先はキッチン。そこには珍しくエプロンを身に付けた少女が背を向けて作業に没頭していた。
「…ユメコ」
「あ、ジョルノ」
彼女に近付いてひょいと手元を覗けば、大きなボウル。そこを満たすのは香りの根源であるチョコレート。溶かし終えたばかりなのだろうか、そこからはまだ微かな湯気が。
「何を作っているんですか?」
「チョコレートケーキ。これからクリームを作るのよ」
ジョルノが辺りを見回せば、ふわふわの真っ白いホイップクリームやら焼かれたスポンジ、美味しそうに熟れた苺が目につく。
友人に作り方を教えてもらったのだと、せっせと作業をしながらユメコは楽しそうに話す。その間にも混ぜられるチョコレートを、ジョルノはじっと見つめ。
「…味見、しても?」
「ジョルノならそう言うと思ったわ」
ふふ、とユメコが柔らかく笑いながらボウルを差し出す。ありがとうございます、そう言って嬉しそうにブラウンの海から指で一掬いする。温かなチョコレートは、いつも口にするそれよりも格段に美味しそうで。
「…おいしい?」
日常の言動から大人びているという印象の強い彼だが、この時ばかりは年相応の少年、といったところか。ユメコが問い掛けると、はい、と柔らかく笑う。
「ユメコは食べました?」
「ううん、ちょうど溶かし終えたばかりだったから。さっき味をみようかなって思っていたの」
そう話す内にもジョルノは再度、好物に手を延ばしていた。
あ、ジョルノったら。ユメコが自分もと指先を沈めようとした時、身体が引かれた。そうしたのは紛れも無くジョルノ、彼しかいない。不思議に思ったユメコは、もちろん顔を上げる。
「ジョルノ?」
「じゃあ、これを食べればいい」
腰に回されていた手が顎に添えられた。そして目の前に差し出されたのは、チョコレートを掬ったジョルノの指先。
「え、は、恥ずかしいから、いいよ!」
「遠慮しないでください、ほら」
「ジョル、んっ」
有無を言わせないといったようにジョルノは彼女の唇に指を運んだ。そうすることでユメコは口を開かなくてはならなくなり、顔を染めながらもチョコレートを舐め取る。
「美味しいですか?」
舐め終わったのを確認してから指を離し、にこりと微笑みながらユメコに問うた。
「…う、ん…」
真っ赤になっているであろう顔を隠すように俯いていると、再び顎を持ち上げられる。今度は何だ、と驚きで開いた瞳がジョルノを映す。
「最後に」
ふっと視界が暗くなったと同時に、唇に柔らかな感触。そうしてちゅ、と軽い音を立てて離れた後、ジョルノの舌がユメコの唇を舐めた。
「チョコレートとユメコ、一緒に頂けるなんてラッキーですね。ケーキも楽しみにしてますよ」
硬直している身体に小さなハグを贈ってジョルノは散歩に行ってきます、と背を向ける。
「も……もう…」
バタン、とドアが閉められた音を聞いて、ユメコは一人熱くなった頬を押さえた。
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好物プリン萌えコロネ(081102)