「くそ、億泰の野郎ォ〜…」

溜め息が白く広がった。
数十分そこにつっ立っていただけでも耳と鼻頭は寒さに晒されジンジンと痛む。一度鼻を啜り、ぐいとマフラーを口元まであげて周囲を見回すがそこは見知らぬ人だらけで、約束をした彼の友人は一向に来る気配がない。

「…仗助くん?」

ふと、背後から聞き慣れた少女の声で名を呼ばれ、心臓がドクンと強く鳴った。瞬時に分かる、億泰ではない、この声は。寒さに震えていたはずの体が、その一声でみるみるうちに熱を持っていくのが分かった。

「あ…、っ夢子、」
「明けましておめでとう!」

振り返ったその姿に仗助は息をのんだ。そこには制服姿でも私服姿でもない、着物を身に纏った別人のような夢子の姿。今年もよろしくね、などとお決まりの挨拶をされるがもはや仗助は曖昧な生返事しか返せずにいる。

「お前、一人、か?」
「うん…それが、由花子とはぐれちゃって。仗助くんは億泰くんと一緒じゃないの?」
「ああ、待ち合わせしてンだけどよ…」

何の連絡手段も持たないのだから、お互いに相手を探すかどこかで待つ他に手段はない。しかしこの人混みの中だ、夢子一人では由花子を探すのは少々骨が折れるだろう。

「…よし!由花子探すかァ!」
「そんな、大丈夫だよ!仗助くんは待ち合わせしてるんだし…」
「気にすんなって。億泰のヤロー、もう俺を30分も待たせてンだぜ…」
「ええっ!」
「それに二人で探したほうが効率いいだろ?……ホラ」

歩き出した仗助が手を差し出す。ポケットで寒さを凌いでいたその手は、暖かく夢子の冷えた指先を掴む。

「…躓かないようにしねーと」
「あ…、ありがとう」
「……その格好、あの、何だ…何つーかよ…」

“綺麗だ”。このたった四文字がなかなか口に出せない。普通なら簡単に言える言葉だ。けれどもその言葉を、真っ直ぐに好きな女の子に向けるとなったら事情が変わる。仗助は前を見据えて歩きながら己と葛藤していた。

「…ッきれ―――」
「ああーーーッ!仗助テメェーッ、何夢子ちゃんと手ェつないでンだよおおォォーーーッ!!」

仗助にとって本日二度目、再び背後から、今度こそ馴染みのある声が耳をつんざいた。

「億泰くん…に、康一くんと、由花子!」

仗助がわなわなと震えながら振り向けば、そこには走ってやってくる億泰に一緒に来たであろう康一、そして今まさに探そうとしていた由花子の姿。そして二人は一瞬顔を見合わせると慌てて繋いでいた手を離した。夢子の指先に、仗助の温もりを微かに残して。

「一人でいたときに康一くんたちと会ったの」
「良かったあ、無事に会えて!」
「ところで夢子、さっき仗助と手なんか繋いでいたけど…。邪魔したかしら?」
「そ、そそんな!あれは、転ばないようにって…!」
「仗助くんがエスコートかァ…」
「も、もう、康一くんまで…そんなんじゃあないったらッ!」
「――てンめェ〜〜〜…新年早々なんてうらやましい事を…ッ!!」
「おッ、オメーが遅刻するからだろーが億泰ッ!!っていうかタイミングがワリーんだよォ!」

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今年も杜王町は平和です。
(100103)
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