「…ほら承太郎、イルミネーションがすごいよ」

見事に装飾された一本の大木。リボンと鈴を纏い、天辺には一際輝く星のオブジェ。青の光を基調に包まれたロマンチックなそれ――クリスマスツリーを、夢子は目の前で見上げることなくホテルの部屋から窓越しに見下ろしていた。

「部屋からでも十分に見られるだろう」

声を弾ませ振り返るが、生憎承太郎は興味がないらしくカップに注いだコーヒーに口をつけながら冷静に返答する。それを聞いて夢子の眉は困ったようにハの字に垂れるが、気を取り直して再び賑やかな外に目を向けた。

「…やっぱり今日は出掛ける人が多いんだわ!」
「わざわざ人混みの中に行く必要は無いんじゃあないのか?」

ツリーから目を離せば辺りは大きなそれを眺めたり、待ち合わせをしている恋人たちがたくさん見受けられる。だがその光景を見た承太郎は人混みを好まないせいもあってか、面倒だと言わんばかりに眉を潜めた。
近年、承太郎は忙しい身の上クリスマスとあろう日も仕事に追われ別々に聖夜を過ごしていたが、幸い今年は珍しくスケジュールが空白になり、こうして二人で過ごすことが出来ているのだが。
今日という日は誰もが楽しそうに輝いていて、夢子はその光景を僅かながらも羨ましく感じていた。別に、街を歩く恋人たちのように手をつないだり、抱き締めあったりしたいわけではない。ただ承太郎とこのクリスマスという雰囲気を感じてみたいのだ。

「き、今日はこれから雪が降るかも…」
「さっきの天気予報とは真逆のことを言うんだな」

――けれども、ことごとく玉砕。出掛けたいという夢子よりも承太郎の方が数枚も上手だった。

「……ばか、承太郎のばか」
「……。どうしてお前はそんなに外へ出たがるんだ」
「だって、今日はクリスマス、だか、ら」

クリスマスっていったら、恋人と過ごす日なのよ?ちょっとは特別なこと、したいじゃあない。
出かけた言葉は心の中にしまい、暗闇が広がる窓を上質なカーテンで遮る。何も、外出しなければクリスマスを楽しめないわけではないのだ。このホテルの室内でゆっくりと二人で過ごすのもこれまでのクリスマスと比較したら文句ない贅沢だ。半ば自らに言い聞かせ、自分もコーヒーでも飲もうと踵を返すと、恐らく承太郎が付けたであろう煙草の匂いがフと夢子の鼻腔を掠めた。

「女っていうのはどうも分からないぜ…」
「!」

突然、背後からバサリと被せられた布にびくりと肩が跳ねる。驚いてそれを手繰り寄せてみると見慣れた夢子のトレンチコート。何も言わず承太郎を見ると、彼は煙草を銜えながら白のコートに袖を通していた。

「長居はしねーぞ」

ぽつりと一言告げて、そのまま馴染みの帽子を目深に被ると、承太郎はすたすたとドアへ向かっていってしまう。その姿に夢子の表情はぱっと明るくなり慌ててコートを羽織って駆け寄った。

「…ありがと、承太郎」

込み上げてくる笑みを隠すように、承太郎の腕に寄り添って。
こうして二人は聖夜の中に溶けていった。

「俺としては、お前と二人きりで過ごしたかったんだがな」
「?」
「…いや、」

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メリークリスマス!(091225)
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