「…承太郎」
「……」
「寝たかなー」
「……」
「じょうたろー」
「…ンだよ」

伏せていた瞼を渋々開け控えめな声がする方向に体を捻ると、向かいのベッドサイドに小さく座る夢子と目が合った。

「どうしよう、眠れない」
「…明日朝イチだろ。早く寝やがれ」
「それが出来ないんだってば」
「じゃあ聞くが、俺にどうしろってーんだ」
「ま、待って」

もっともな意見を口にし、承太郎は再び寝る体制に入ってしまう。それを引き止めようと夢子は慌てて声をかけるが、あ、とかあの、と口ごもっている間に深緑の双眸は瞼に隠れていた。

「…そ、そっち行っていい?」
「……お前、何言って……って、おい!」

有無を聞かずに夢子はがばりと承太郎のベッドに潜り込む。当然、承太郎はそれを止めようとするが既に夢子は体を丸めそこに横になっている。大きく溜息を一つつき、仕方なしにソファーへ移動しようとするとシャツをくいと引っ張られた。

「…いやだ」
「だからってこのまま寝ろってか?」

年頃の男女が同じベッドで寝る。それはいくらなんでもマズいだろうと、当たり前のように承太郎は考える。朝になってこいつが寝ぼけて勘違いでもしたらどうする。そして万が一、仲間の野郎共に見られたら俺はどうなる。しかし夢子は、そんな承太郎をよそに無言で小さく頷くのだった。

「…やれやれだぜ」

相変わらず夢子は顔を伏せ丸くなったままでいる。何だか分からないが面倒なお守りを押し付けられたもんだと目の前の小柄な少女を眺めつつ、今日はこのまま眠るしかないと思っているとふと夢子が口を開いた。

「承太郎、いなくならないでね」
「わかったから早く寝ろ」
「死んじゃだめだからね」
「…。ああ」

それからいくらかして夜の静寂に包まれると夢子はあっという間に眠りに落ちた。逆にいささか目の冴えてしまった承太郎はというと、先程の夢子の言葉をぼんやり思い出しながら一人微かに口の端を上げるのだった。

「何かと思えば、下らねえ心配しやがって」


翌日、何事も無かったように目覚めジョセフ達と合流した二人は(正確に言うと二人とも寝坊しかけたが夢子が承太郎を叩き起こした)また今日もエジプトの街を巡ることになるのだが。

「…承太郎、もしかして寝不足?」
「昨夜は誰かさんが隣に押しかけてきたんでな」
「…うう、」
「全くやれやれだぜ。呑気な顔して寝やがって…」
「み、見たの?最悪だわッ!」
「てめえが勝手に入ってきたんじゃあねーか。あのマヌケ面、よォーっく拝ませてもらったぜ」
「…ーーーッ!」

朝から言い争う二人の後ろで、他の四人が顔を見合わせていたとか。

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御一行と旅の途中で
(110413)
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