■ A
「ここに座って!」
…夏休みも後半。
ファミレスに呼び出されたわたしは、素直に言われた場所に座った。
急いだわけじゃないのに、動いていた足を止めると滝のように汗が背中を伝っていくのが分かる。
きやすめにもならない手で作ったウチワを顔の前でパタパタと振るわたしに、目の前の沙和が身を乗り出して綺麗なその顔を近づけた。
「どうなってるの?」
「え?」
「え、じゃない!ツヨシとどこまでいったのよ?」
「あぁ、普通に買物行って、映画も行って、あとはゲーセンでしょ、プリクラも撮って…あと来週海連れてってくれるって…」
バンっ!
わたしの回答が気に入らなかったのか、沙和はギャラリー関係なしにファミレスのテーブルを片手で叩いた。
当たり前にみんなの注目を集めるわけで。
「そっちじゃないよっ!!」
続く怒鳴り声にビクっと肩をすくめた。
沙和の言う「どこまで」の意味は分かっている。
はぐらかしたのはわたしで、でも…―――
「顔が怖いよ、沙和…」
「ユカリ…」
「うん?」
「…よかったよぉ、もう…」