■ D
どうしてこんなに優しいの?
ツヨシが嫌な奴だったら和也くんだけを好きでいられるのに、こんな風にわたしの心の中に入ってきちゃうツヨシをズルイと思った。
「ユカリ…」
当たり前みたいに伸びてくるツヨシの腕に、簡単に抱きすくめられるわたしは、ツヨシの温もりを身体が覚えていて、それを心地良く思っている自分がいる。
香水も興味がなかったのに、ツヨシの匂いはわたしを安心させてくれて、ツヨシ以外の人がその匂いをつけているだけで、ツヨシを連想させてしまう。
和也くんにあんなことされたわたしに優しくするなんて、ツヨシはズルイ。
付け入るにはうってつけの展開に、自然と入り込むツヨシは、わたしをその腕にギュウっと抱きしめる。
心は和也くんのものに違いない。
それはきっとこれからも変わらない。
けれど、今この人の腕を離すことも、できそうもない…
「ツヨシの謹慎解けたら、またここに連れて来て…」
涙を拭うツヨシの指が止まってわたしの頬にピタっと添えられた。
真剣な瞳は、そのままジッとわたしを見つめている。
「約束する」
「ツヨシ以外の後ろは乗らないから…」
「…うん」
そう答えたツヨシは、わたしと同じくらい泣きそうな真っ赤な目で、フワリと笑ったんだ。