■ H
…ツヨシの手で髪を下ろされたわたしは、みんなが視線を向けたけれど、和也くんを見つめ返すだけで精一杯。
奈々がそんなわたしを、和也くんの想い人であるゆきみに、あろうことか「似てる」なんて言い出して、ゆきみはゆきみで、わたしを何故か「可愛い扱い」したところで、肝心に和也くんに「似てない」ってバッサリ切られた。
でもそんな和也くんに奈々は悪戯っ子みたいな笑みで蚊帳の外に出すような発言をして…
本当に一瞬だけ、ほんの一瞬だけ和也くんがわたしを見た。
…あの目に見つめられて、心臓が掴まれた気分だった。
でもそれはほんの一瞬で、すぐに目を逸らすと、和也くんはソファーから立ち上がると、そのままわたしに見向きもしないで、地下へと続く大きなドアを開けて階段を下りて行った。
その後ろ姿を見送るのはわたしだけじゃなくて、ソファーに座っていたゆきみが「和也ご機嫌斜め?」なんて呟く。
その意味は、わたしにだって分かるわけで…
ゆきみの隣で、奈々が苦笑いを零した。
「彼女名前は?」
もういなくなっている和也くんの残像を見つめるかの如く、ドアをジッと見ていたわたしに聞こえたソプラノボイス。
学校でほんの一瞬目が合ったのとは次元が違う、今はその猫目をしっかりとわたしに向けている、ゆきみ。
「あっ…ユカリですっ!」
「ユカリ?」
「はっ、はい…」
おどおどするわたしとは対照的に、くすって笑うゆきみ。
奈々と目を合わせて又、笑う。