■ F
和也くんの言いたいことが分かった。
遠回しのように聞こえるその言葉たちは、遠回しでも何でもなくて、正直な和也くんの思い。
わたしの存在が和也くんを混乱させてしまっているんだと。
ただの自惚れは、だてに自惚れじゃなかった。
「分かりました」そう言えばいいのに、言葉が出てこなくて、鼻の奥がツーンとした。
別に永遠の別れじゃない。
けれど、永遠の別れと、いえなくもない。
わたしはもう、和也くんとこうして話をすることも、和也くんを想うことすら、できなくなってしまう。
ツヨシがいる、ツヨシがいる…
何度となく頭の中で自分に言い聞かせてきた言葉。
ツヨシを好きだと思う気持ちも決して嘘じゃない。
でも…―――
「それでもわたし、和也くんが好きです…」
そう言えたら、どんなにいいか。
人間なんて所詮は自分が可愛い傷つきたくない生き物。
我儘な生き物。
ずっと傍にいてくれたツヨシを裏切ることは、わたしにはできない。
和也くんの言う通り、ツヨシと一緒にいる方がわたしは幸せだって…
何も言えずに俯くわたしの赤い髪を撫でる和也くん…
「ごめん」
無理やり話を終わらせた。
そして、ツヨシがよくしてくれたその髪を撫でる癖が、和也くんがゆきみに対してやっていたものだと、今更気づいた。
もっといえば、拓真がゆきみによくする仕草だったんだと。