■ D




どうしてこんなに優しいの?

臣が嫌な奴だったら直人くんだけを好きでいられるのに、こんな風にわたしの心の中に入ってきちゃう臣をズルイと思った。




「ユカリ…」




当たり前みたいに伸びてくる臣の腕に、簡単に抱きすくめられるわたしは、臣の温もりを身体が覚えていて、それを心地良く思っている自分がいる。


香水も興味がなかったのに、臣の匂いはわたしを安心させてくれて、臣以外の人がその匂いをつけているだけで、臣を連想させてしまう。


直人くんにあんなことされたわたしに優しくするなんて、臣はズルイ。


付け入るにはうってつけの展開に、自然と入り込む臣は、わたしをその腕にギュウっと抱きしめる。




心は直人くんのものに違いない。


それはきっとこれからも変わらない。


けれど、今この人の腕を離すことも、できそうもない…




「臣の謹慎解けたら、またここに連れて来て…」




涙を拭う臣の指が止まってわたしの頬にピタっと添えられた。


真剣な瞳は、そのままジッとわたしを見つめている。




「約束する」


「臣以外の後ろは乗らないから…」


「…うん」




そう答えた臣は、わたしと同じくらい泣きそうな真っ赤な目で、フワリと笑ったんだ。






- 71 -

prev / next

[TOP]