■ A
ガチャ…とバーに続く階段のドアが開いて、疲れたような臣が姿を見せた。
わたしはいても立ってもいられなくて、半ば無意識で臣の元に駆け寄っていた。
駆け寄るわたしを受け止めるように、飛び込んだわたしの肩に臣の手が添えられる。
「帰れって言ったのに」
そう言う臣の声は怒っているのに、その顔は嬉しそう。
…今まで臣の顔をちゃんと見ていなかったんだろうか、わたしは…。
わたしを見下ろす臣の瞳は優しくて、待っててよかった…と思わずにはいられない。
「臣大丈夫?」
「あぁ、悪かったな」
クシャっとわたしの前髪を触る。
「わたし達、どうなった?」
核心的な質問を臣に投げると、その優しい顔が少しだけ歪みを見せる。
眉毛を下げて遠くを見つめる臣は切なげな瞳をゆっくりとわたしに戻した。
「夏休みの暴走、ダメんなった…。けどお前は参加できるようにもっかい頼んでみるから…そんな泣きそうな顔すんなって」
涙なんて零れてないのに、わたしの頬に涙の糸を指でひく臣。