■ F
「…髪、どうしたの?」
そう呟いた次の瞬間、その声がいち早く届いているだろう直人くん、ツカツカとわたしの方に歩いてくる。
ドキっとして、でも動けなくて…
だって直人くんの顔が、明らかに怒ってる。
昨日、わたしに微笑みかけてくれた顔なんてカケラもない。
「なんだこれ?」
直人くんの手が、わたしの髪の毛を持ち上げてそう聞く。
「あの…」
「ふざけんなよっ、このクソ女っ!」
怒鳴り声を上げた直人くん、わたしから一端離れるとお店の裏側に行って、ハサミを持ってくる。
そのままそのハサミを持ってわたしの長い髪を持ち上げて…―――
切られる!!
「イヤッ!」
「直人さんっ、すいませんっ!」
力強い腕がわたしの腰に回っていて、後ろから引き寄せられるみたいに、抱えられた。
背中に感じる熱い体温は、間違いなく臣のもの。
耳元で荒々しく繰り返される呼吸も臣のもの。
自然と零れる涙が頬を伝って…
ギュって臣の腕が後ろからわたしを抱え込んだと思ったら、スッと離れてその姿をわたしの前に見せた。