■ F




見える景色がどんどん変わっていく。


世界は夜にのまれているというのに、わたしから見える景色はどこも色づいて見える。


直人くんの背中は思った以上に大きくて、その身体もわたしとは全然違う男の人って感じ。


骨ばった身体に巻き付いているなんて、信じられなかった。


どうしようもなくドキドキして、この鼓動が直人くんにも伝わってしまっているかもしれない…


そんなバカなことを思ってしまう。




気づいたら、見覚えのある景色が映っていた。


ゆっくりとバイクは青い倉庫に到着する。


まだあまり人が帰ってきていないらしく、カランとしていた。




「降りろ」




ど低い声がして、わたしはバイクから降りた。


ふう〜…って直人くん、下を向いて息を吐き出すと、ポケットを探って煙草を取り出した。




「あの、ありがとうございました」




わたしがそう言って頭をさげると、直人くんは逸らしていた視線をこちらに向けてくれる。




「大丈夫か?」




怒られると思っていたわたしは、その優しい声色に拍子抜けしてしまう。


臣の言葉を聞かずに直人くんについて行ったわたしが悪いのに、それなのにそんな優しい言葉をくれるなんて、思ってもみなくて…





- 54 -

prev / next

[TOP]