■ A
「直人さんの方だとまた危ねぇかもしんねぇぞ?」
「…うん…」
暴走前にお決まりの臣の言葉。
小さな暴走の時はないけれど、今日みたいな大型暴走の日は、二手に別れる。
どうしてか?直人くんは危険な道ばかりを選ぶみたいで…
何がどう危険なのか?なんて残念ながらわたしには分からないのだけれど、それでもやっぱりわたしは直人くんの方に行きたい。
でもあんな風に物置に閉じ込められたり、わたしのせいで臣を喧嘩させることは避けたいとは思っている。
「分かったって。そんな顔すんなよな」
ポスっと臣の手がわたしの頭を撫でて、そのまま肩に落ちる。
わたしの耳元で囁く臣の声は低めで。
「髪勿体ねぇな…」
スッと緩く編みこまれたわたしの髪を撫でて臣の手が離れた。
…意識しているわけじゃないけど、こういう行動はドキっとしちゃうからやめてほしい。
それとも臣はそんなわたしを見て楽しんでる?
むしろ、からかってる?
そんなわけないか…。
「直人の後ろ、乗りたいな〜」
ロングの真っ赤な髪をなびかせて、直人くんの隣に座っているのは、哲也の恋人のゆきみ。
煙草の煙がゆきみの方にいかないように、顔を背けて吐き出す直人くんは、嬉しそうに微笑んでいる。
スッとその手をゆきみの髪に触れさせて…―――
「哲也さんに内緒で二人きりになりに行く? 連れてってやるよ、ゆきみが望むなら」
「直人って誰にでもそんなこと言ってるの?」
「まさか!俺正直だからゆきみにしか言わねぇよ」
「ならよかった」
思わせぶりなゆきみの言葉に、目を大きくして固まってる直人くん。
地面を指でなぞってハートを書いているゆきみの手を直人くんが握って…
「ゆきみ?」
「うん?」
「今のって…?」
「だって、そんなこと言われたら勘違いしちゃうでしょ。その被害者がわたしだけでよかったって意味」
くすってゆきみは笑った。
ほんのちょっとだけ余裕そうな顔で。
直人くんは困ったように眉毛を下げて、煙草を口に含んだ。
また、反対側を向いて煙を吐き出す。